異能審神者の憂鬱 闘争 ―――タイムリミットは、1時間。 「さて。あの人数相手にどれだけ立ち回れるか」 鶴丸が呟くように言えば、いまだ困惑したままの次郎が声を上げる。 「本気かい?そんなことをすれば、刀解は免れないよ?」 「そこで彼女を試すのさ」 死織という審神者を、彼らはまだ掴み切れないでいる。わかっているのは、彼女が自分の刀剣達に対して、何かしらの執着を持っていることだった。 その執着が自分達にも向けられているならば―――刀解は、ない。 「一種の賭けだとは思うけれど………試してみるくらいなら」 「岩融がいっしょなら、ぼくはだいじょうぶです」 獅子王と今剣がそれぞれ声を上げる。よし、と鶴丸が口を開いたその時。 「―――なんの話?」 彼らが自身の本体を手に持ち視線を向ければ、戸口に小夜が立っていた。その手には、抜き身の『小夜左文字』が握られている。 「主に危害を加えるつもりなら、容赦しないよ………!」 この本丸で一番練度が高いのは三日月達だ。鶴丸がそれに次ぐくらいだろう。間違っても小夜が敵う相手ではない。………でも。 「僕は主を守るんだ。あの人の傍らで、あの人の笑顔を守るんだ!」 「………ずいぶん、慕われているらしい」 スラリと、鶴丸が自分の太刀を抜く。その場に緊張が走り―――2人は同時に地を蹴った。 中庭は戦場と化していた。一期は弟達と共に戦いながら悔しげに唇を噛む。彼の練度は70に届くか届かないかくらい。どうやっても主戦力である彼らの足を引っ張ることにしかならない。 それが、悔しい。 「―――くっ!」 「倶利伽羅、その程度か?どうやら彼女は、出陣があまり好きではないらしい」 「っ、アンタにあいつの何がわかる………!」 倶利伽羅は中傷、鶴丸は軽傷で打ち合っていた。練度はほぼ同じだが、彼は鶴丸よりも先に本丸にいて、彼女のそばにいた。……………腕が、鈍っている。それに気付いて歯軋りをするも、死織を責める気など彼にはさらさらなかった。そもそも、それを受け入れたのは自分自身だ。 大きく踏み込み、鶴丸の刀を横に払う。がら空きになった脇腹を低い位置で滑り込んだ長谷部の刃が襲った。紙一重の隙間を残して、彼は避ける。 「………っ、息があっているな。あの大倶利伽羅、が!」 ガキンッ、と長谷部と鶴丸の刃が噛み合う。 すぐに2人は距離を取り、白い彼は倶利伽羅の一太刀を流した。ふっ、と息を吐く。 「そろそろ出て来ても、いい頃だがな」 「主の手を汚すわけにはいかない。貴様は今ここで圧し斬る」 「長谷部殿………それは、主が望むことではありません」 鶯丸と打ち合いながら江雪が言う。酷く嫌そうな顔をして長谷部はため息をついた。 その隣で、倶利伽羅が刀の柄を握り直す。 岩融には石切丸と宗三が、今剣には小夜が、蛍丸には骨喰と鯰尾、獅子王には青江が、鳴狐には薬研が、太郎には一期と粟田口の短刀達が、それぞれ向かい合っていた。次郎は、困惑ぎみに様子を見ている。 構え直した倶利伽羅と長谷部を見て、鶴丸は目を細めた。ゆるりと足を滑らせ、口元だけで笑う。 「―――最高の驚きを、贈ろう」 言い終わると同時に踏み込み、各個撃破を狙う。まずは長谷部。 鶴丸が振るった刃をギリギリで受け止め、彼は反撃に転じる。………ただ、主のことが心配だった。こんなに傷だらけになった自分達を見て、彼女はどんな顔をするのだろう。 その考えは、隙だった。 「――ぐっ!!」 「長谷部!」 一撃で中傷に陥った長谷部は膝をつく。駆け寄ろうとした倶利伽羅に勢いを殺さないまま鶴丸は刀を振り抜いた。彼は受け止め切れずに重傷に追い込まれる。倒れた倶利伽羅の首筋に、刃が突き付けられた。 「君達を折ったら、彼女はどんな顔をするだろうか?」 「……………っ!!」 殺気立った目付きで鶴丸を睨み、倶利伽羅は本体を強く握り締める。その時だった。 カチ、という小さな音。それと共に声が響いた。 「そんなこと、この俺が許すと思ってんの?」 [*前へ][次へ#] [戻る] |