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異能審神者の憂鬱
発動
全員分の視線が彼女に集まる中、死織は周りを見回して被害状況を確認する。
「江さん軽傷、なまずん喰くん、げんげん、長谷さん中傷、伽羅さん重傷、ね」
左手に持った青い柄のカッターをすいっと流し、手の中で回す。死織の後ろには乱がいて、目を伏せ地面を見つめていた。
ひた、と死織と鶴丸の目が合う。
「鶴丸さん、やめていただこうか。俺の゙家族゙に手を出すならば、容赦しないよ?」
「………刀剣を家族と呼ぶのか。こいつは驚きだ」
「そーよ、大事な゙お兄ちゃん゙ど弟゙です」
くす、と彼女は笑った。死織の纏う雰囲気だけが穏やかで、あまりにも場違いだった。柔らかく笑む彼女を見て目を丸くした鶴丸は、不思議そうに問いかける。
「君は、怒らないんだな」
「まぁだいたい予想してたからね。でやめるの?やめないの?」
それによっていろいろ変わるんだけどにゃー、と言いながら死織は足を進めた。すたすたと、初対面の時と変わらぬ警戒心のなさで、彼女は鶴丸に近付く。
カチャリ、と鶴丸が刀の柄を握り直した。
「それ以上近付けば、大倶利伽羅の首が飛ぶぞ」
「っ、鶴丸!!」
倶利伽羅が叫び、強く彼を睨み据える。ぴたりと死織は足を止め、鶴丸を見た。
ぢぎぢぎぢぎっ!!
カッターの刃を一杯に押し出し、彼女は右手を振る。袖の下からのぞく包帯に手をかけ、勢いよく解いた。それを見た乱の顔が、泣きそうに歪む。
「………え?」
誰かが声をもらす。包帯の下から現れた彼女の腕には、縦横無尽に走る傷痕が刻まれていた。そんな腕へ、カッターの刃を当てる。
赤い飛沫が、舞った。斜めに大きく走る傷口から赤い液体が流れて腕を伝い、地面へ落ちていく。
袖を肩まで引き上げて、死織は口を開いた。
「<縛れ、緋き鎖。その頑丈さ生命の如く>」
言葉が響くと鶴丸達の足元から緋色の鎖が顕現し、彼らを縛り上げる。鎖に引きずられ地面に倒れる者もいる中で、鶴丸は一閃で鎖を砕いて死織へと踏み込んだ。しかし彼女が再び腕を切りつける方が早い。
新たな傷が刻まれ、赤が流れる。
「<縛れ>!」
「っ、ぐぅっ………!」
先ほどよりも素早く鎖が鶴丸の四肢に絡み付いていく。同じように一閃するも、強度が上がっているのか刃が弾かれた。
鶴丸達が動けなくなり、拘束が完了する。
「知ってる?人は血を流している時、生命力も一緒に流しているんだってさ」
唐突に死織は話し出す。懐からガーゼと包帯を出し、慣れたように手当てをしていく。
白いガーゼが赤く染まっていくのを見ながら、彼女は続けた。
「俺の『異能』は、出血量で早さや強度が上がる。貧血寸前まで腕を切り刻めば、一瞬で拘束が完了する」
「……………」
「攻撃も防御も出来るよ。発動条件は『出血すること』だけ。俺の目の前で、俺の<悪夢>を再現すればいいだけ」
手当てが終わった死織は包帯の巻き具合を確認し、1つ頷いて重傷の倶利伽羅へと歩み寄る。驚愕に目を瞠っている彼へ手を差し出した。
「伽羅さん、立てる?手入れ部屋行こうか。無理そうだったら肩貸すし」
「………アンタは、」
呼びかけて、何も言えずに口を閉じる。自力で立ち上がり、刀を鞘に納めた。同じように長谷部も立ち上がり、刀を仕舞う。我に返った薬研が死織に歩み寄り、右腕を取った。
「大将、後で診せろ」
「んー?大丈夫、自分の腕縫うの結構慣れた」
「慣れた、って………」
「リストカットは自殺の手段だからね。いろいろあってやってたから、上達した」
あっさりと言い放った死織を絶句した薬研が見上げる。彼の顔を見た彼女は苦笑し、頭を撫でた。その彼女の後ろから、声が。
「君の悪夢とは、なんだい?………俺達を、刀解しないのか?」
心底不思議そうな鶴丸の声。んー、と声を上げた死織は振り向き、いつも通りの笑顔を浮かべた。
「君達だって、俺の守るべぎ家族゙だからね。折ることも折れることも許さんよ。………俺の<悪夢>、それはねぇ」
目を細め、懐かしむように死織は言った。
「血の海に沈む家族の姿、だよ」
「……………!!」
「鶴丸さん達の手入れは後な。燭さん達と一緒にやるよ」
というわけで待っててやー、と子供のように無邪気に笑って、倶利伽羅の手を取って歩いて行った。

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