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オレンジ信号機

 「洋介よ。約束の期日まであと数年……分かっているな」

中学生になると、平井の周囲の目はますます激化の一途を辿った。
跡取りとしての自覚を持てという者、息子の人生なのだから好きにさせてあげたい気持ちもある親、そして全てを我が手中で踊らせたいと画策する祖父。
学校へ行けば変わらぬ笑顔に会える筈。それなのに顔を合わせば合わせる程一人でに追いつめられていくような気がして、平井は次第にそれを拒否してしまった。
齢十四。多感な年頃である彼の選択を、誰も止める事は出来なかった。

 夕刻になり、家の裏口からひっそりと抜け出して夜の街へと繰り出す。
目立つ金髪は黒いカツラの奥に隠して、使える大枚は全て叩いて好き勝手に行動する。
するとどうだろう。どんな世界でもお金を持つ者の所には人が集まってくるもので。
怪しい見た目もあいまってか、気がつけば平井は取り返しのつかない程大きなグループの先頭を歩かされていた。

「所詮は不良チームじゃねぇか」
「あら、でも解散しないあたり、洋介も結構気に入っているんじゃないですか?」

右腕にそっと寄り添うのは自称ナンバー2を名乗っている井上だ。
そう、小学校からお坊っちゃま学校に通わされて嫌気の指していた少年たちは、夜な夜な脱走を計ってはストレスの発散をしていたのだ。

「構って欲しいから試しているんじゃないですか、あの彼の事を」
井上は事情を知ってか知らずか、他人事だと思って平井を煽る。

「焦ってんだよな、洋介は」
「哲也には関係ないだろ」

初対面で自己紹介をされた時から、平井は内原哲也が親友の初恋の君である事を見抜いていた。
直感、名前、状況−何より先んじて調べていた顔とほとんどうり二つであったし、周りの友人たちが“こいつは本当になっちゃんバカ”と言っていたのだ。
そんな人の気も知らないで、よく調子の良い事が言えるよ、と平井は憤慨した。

 そしてそんな平井の計画が功をそうしたかどうかはさておき、東江は親友がいなくなり孤独化した。
既に形成されているコミュニケーションは新たな人物を許容するのに時間を有する事は東江が一番よく理解していた事である上に、平井が長年側にいたせいで、初対面の相手とのやり取りなど学ぶ機会すらなかったのだから。

(夏夫が自分から話してくれさえすれば、きっとこのトモダチとかいう壁だって壊せて、もっと近くにいけるのに)

だって自分は、助けてやる術もどんな願いも叶える気持ちもあるのだ。
だから後は、向こうが手を出して頼ってくれるだけでいいのに。

それが出来ないから、臆病者なのだといつぞや祖父は言っていたが、案外それも間違いではないと平井は自嘲する。
平井がチームを抜けると決断を迫られるその日、東江は両親にせっつかれ夜食を買いに外に出ていた。
そうして、黒いカツラ姿に変装した平井と遭遇してしまったのである。

「こんな所に外に出てたら危ないよ。君、まだ中学生でしょ」
「それをいうならアンタもだろ」
「僕はいいんだよ。でも君には心配してくれる家族とか、友人とかいるでしょ」

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