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オレンジ信号機

 小学校一年生の一年間は平井にとっては最高で極上の一言だった。
勉強は既に家で学ばされた事の繰り返しで成績は常に上位。
運動は嫌いではないから女生徒にもチヤホヤされる。
何より−夏夫がいつでも側にいてくれたのだ。
彼はどこで知ったのか、色々な遊びに詳しくて、平井の狭まった視界が広がるような気がした。

「カンケリって、なにかのりゃくなのかとおもってたぜ」
「じっさいやってみないとこのおもしろさはわからないよね!」

ころころと表情が変わる夏夫は見ていて飽きる事がない。
平井が未知である事を恥じていようと、これから知っていけばいいと教えてくれる。

 だからこそ、冬になり春が近づいてくると、別れの空気がクラスに漂う事が嫌だった。
平井はそもそも別の学校に行く予定があったのを引き延ばしにしてあったのだが、夏夫のその後の言葉にそれすらも変更する事となる。

「もうすぐくらすがえだから、よーすけともはなればなれだ」
「くらすがえ、ってなんだ?」

そうして平井は、一年ごとにクラスのメンバーを入れ替える“クラス替え”という制度がある事を知る。
夏夫が、別のクラスになって、自分の知らない誰かと仲良くする可能性があると言う事を。
(そんなのぜったい、だめにきまってる)

 平井は実家まで帰宅すると、普段は滅多に入る事のない両親の部屋まで直進した。
途中、メイドや執事に諭されそうになったが、ここまで来たら止める事など出来ない。

「おりいっておはなしがあります」

そうして平井が告げた事は、今後も普通の学校へ通う事で一般庶民の好み・流行を学ぶ事に繋がるという点・メリットとデメリットだった。

「まぁ余計な出費は我々も避けたい。だが−高校までと言うのはな」
話を最後まで聞いた両親は、それに、と更に続ける。

「理由は他にもあるんじゃないのか。例えば−ナツオ君とか」
怪しんだ様子で見つめられて、平井も睨み返す。そこまで勘づかれているのであれば、話は早い。

「おれはなつおがすきです……おれのものにしたい」

素直に吐き出した告白に、その場にいる全ての人間が驚愕した。
引き離そうと声を上げる者の中で、祖父が一人、手を挙げた。

「青春じゃないか、なぁ」
「どうせおれにはむりだっておもってる」
「まぁそうだろう。だがお前はそれで悔しくないのか?」
「どういういみ」
「持てる力の全てでそいつを動かせ。もし高校生までに掴めないのであれば−スッパリ、それでおしまいだ」

お前には家業を継いで貰う。
前々から洋介を跡取りしたいと考えていた祖父らしい、ずるいやり方だ。
しかしそれでも、絶対的な決定権のあるこの人物が、気まぐれにでもオーケーを出したのであれば、使わない手などなかった。

そうして初めて行使した“契約”は、東江と同じクラスになり続ける事。
次にイベント事では同じ班になる事。
腐れ縁、一番の親友、不動の地位を築きあげる事など、造作もないのだ。

「また同じクラスだね!よろしく!」
「夏夫が一緒になるように祈ってんじゃねーのかー?」
「なんでばれたの!?」

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あきゅろす。
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