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オレンジ信号機
13
 寮に戻って、寮監にも寮長にもこってり絞られる事一時間と少し。
東江は正規の手段を使って出たにも関わらず、平井に付き合い正座をさせられていた。

「なぁ夏夫、何で部屋戻らないんだよ」
「だって目離したらヨースケいなくなっちゃうじゃないか」

ふてくされた様子でそっぽを向きながらも、東江は動く気配すらない。
それは平井の自室に戻ってからも続いており、家主よりもふてぶてしくリビングに居座る東江は妙な光景だった。

 「……夏夫、いい加減部屋戻れって」

居心地の悪い沈黙を打ち切ったのは平井の一言だった。
しかし東江は首を振って、その言葉を否定する。
しびれを切らした平井は夏夫の側まで歩み寄るが−その瞬間、目の前が大きく揺らいだ。

「いっ……てぇ!何すんだよ」

東江が、平井の足をひっかけて転ばせたのだ。
受け身もままならないうちに尻餅をつかされて、一言怒鳴ってやらねばと顔をあげる。
が、いざ言おうとした言葉が紡ぎ出される事はなかった。

二人の間に距離が全くなくなって。
東江が慈しむように、平井の顔に触れるから。
無言で、見つめ返すしかない。
撫でるように顎まで手を伸ばされて、そのままそっと引き寄せられる。

「……ん、ふ、ぅ……」
「……は、ぁ」

(うわ、むちゃくちゃきもちいー)
こうしてキスをするのはまだ二度めの筈なのに、東江はどうしてこうも平井のツボを突いてくるのか。
名残惜しむようにそっと離れた後も、紅潮した表情を隠しもしない。

「……はぁ、ヨースケが不安なのも分かるけど、僕はちゃんと好きだから」

言葉で理解できないのであれば、行動で示すだけ。
ようやく口を拭いながら、東江は淡々と告げる。
どうやら自分の言動によって火をつけてしまったらしい。
今度の今度こそ、平井は完敗だと痛感した。

「……何から言えばいいのやら」
「いいよなんでも話して。いつまでも聞くから」

 とは言え本当に何から語れば良いのか分からなかった平井は、順を追って説明していく事にした。

「八年連続で同じクラスになってたのは、全部俺が仕組んでたってのは知ってるだろ?」
「……え、そうなの?」

まさかそこからか!!
東江はまさか、何にでも気づいているようで、平井の思っている程深くはないのだろうか。
かみ砕いて言うしかなくなるという事は、少しだけ面倒だ。

「俺がこうして好き勝手金を使えるのは、夏夫を手に入れる為の賭けみたいなもんだったんだ」
「僕を手に入れる……なんだか、僕宝物みたいで変な感じ」
「本人は自覚なかろうと、人によっては財宝以上にもなるって話だ」
「なるほど……?」

東江は分かっているのかいないのか、ハテナマークを出しながら頷く。
それを良いことに、一気に畳みかけるが、予想の斜め上の返事がくる。

「だから俺は、嘘でも夏夫に恋人になって欲しかった」
「うん、だから今本当に恋人になった訳で」
「うん……え?」
「え?」

てっきり先ほどのキスは自分を慰める物か何かだと都合良く解釈していた平井は、床の上に腰を降ろした状態で腰を抜かしそうになった。

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