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オレンジ信号機
14
 ここは寮の三〇四号室、通称東江と小峰の共同部屋。
しかし人数は、家主を大きく上回る人数だった。テレビの前に座り込んでいるのは、東江と小峰。リビングで茶をすすっているのは、内原。ソファで頭を抱えているのは井上と平井だった。
仁神はと言えば、退屈そうにシューズを磨いている。一体何の為に来ているのか。
今日は平井と東江から報告する事がある、と言われて皆集まったのだ。

「ヨースケから言ってよ」
「いやいやいやここは夏夫からっしょ!」

お互い、どちらからそれを言うかで揉めて、先ほどからずっとこの調子なのだ。

「何でもいいけど早くしてよ、ボク早く大浴場行きたいんだけど」
「うるさいぞ風呂好き」
「内原は黙ってて」

がやがやと好きに言われてはいるが彼らには随分と迷惑をかけたのだ。
申し訳なさから余計に口が重くなり、二人とも気まずくなっていった。

「別に付き合いますってだけでしょう。私もう帰っていいですか?」
「そうっすね帰りましょう先輩!」

そうこうしている内に井上と仁神が立ち去り、うやむやのままにお開きとなる。
内原はどこか満足した表情で「おめでとさん」と言い残して後に続く。

「ま、あるべき形に落ち着いたんじゃない。ボクが何したってナツ君は自分のしたい方選ぶんだし」
「うん、ありがとうゲン君」

適度な距離を保ちつつ、小峰も自室へと戻っていく。
その後ろ姿はどこか寂しそうに見えるが、隣の部屋とは言え、いざ二人きりにされてしまうと尚更いたたまれなくなるのは何故だろう。

「でもさ、夏夫は本当に俺で良いのか?」
「俺でって、何さ」

だって彼がこの学校に進学した理由は“幼なじみこと初恋の彼に出会う事”だったのだ。
そこにいつも自分の陰はなくて。
だからこそ、今のこの状況が未だに信じられなかった。

「うっちゃんの事か……だってしょうがないじゃない」
「しょうがない?」
「だってこんな心配な親友がいるんだもん、そっちを考えている余裕なんかなくなっちゃうよ」
「親友じゃなくて恋人だろ」

言うが早いか、東江の顔がにわかに赤く染まる。
それが少し面白くて、わざとからかうように含ませたつもりだったが、何とも甘い空気に包まれる。

(おい、小峰がまだ起きてるだろうが)
とは思いつつも、体は勝手に動いてしまう。
そのまま東江に口づけせんとして−すんでの所でストップがかけられる。

「まだ僕達にはあと1つ越えなきゃいけない壁があるでしょ」
「俺の実家の事か」
「そう。全部終わったらいっぱいしよ」

人差し指を口元にやって、はにかむように微笑む。
何としてでもクリアしなければ、欲求すら解消出来ないのか。

(……けどな、あの祖父がそんな簡単に折れてくれるとは思えないんだが)
東江には何か勝算があるのだろうか。
怖いような頼もしいような、その表情からはまだ何も掴めない。

「計画なんてないよ?当たって砕けろって奴だよ」
「やっぱりそうだったか!」

平井はその夜、自室に籠もってプランを立てようと画策したとかしないとか。

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