オレンジ信号機 11 もしかしたら自分には能力があるのかも知れないと平井は思った。 全てを投げて逃げ出してしまいたいと思ったら、かつての仲間が集まってくれるだなんて、そんなムシの良い話があろうとは。 「皆すんなり受け入れたつもりでも、解散したくないって思ってました」 「資金源がなくなるから?」 「違います!貴方を尊敬していたんですよ」 (どうだかな) そうは言っても一人になるよりはずっとましだ。 目深に被ったニット帽はいかにもな格好ではあったが、平井は改めて夜の街に戻ってきた。 そうして指折り数えて薬指に差し掛かった頃だった。平井の元に一人の来客が現れたのは。 それはかつての集団の中で、唯一まだ来ていなかった一匹狼のような彼−内原哲也だった。 「アイツが心配してるぞ」 「生徒会の仕事がこれ以上増えたら困るからじゃねぇの?」 「それもあるけど……それよりも、だ」 「あるのかよ」 どうやら彼は、東江に頼まれて来たらしく、片手には外出許可書、姿は制服のままだった。 中等部の頃はそんな事気にもしていなかった癖に、変な所で律儀な奴なのだ。 「っていうか哲也には直接関係なくね」 「そりゃそうかもだけどよ」 「だろ?夏夫が心配するのだって、どうせすぐ弦あたりと喋ってたら薄まるって」 「お前、そうやってまた信じないのかよ」 「……あ?」 思わず、腹の底から声が出てしまう。 内原はそれで怯む様子もなく、真っ直ぐ平井を見つめて続ける。 「中学の時だって、東江の気持ち試す為にしてたんじゃねぇか。本当成長してないのな、お前」 (そんなの自分が一番よく理解してる!) 「そんなんじゃいつまで経ってもアイツとは結ばれねぇよ。本当の意味ではな」 「ハッ、分かったような事言ってんなよ部外者」 苦し紛れに言い返すと、ようやく内原は眉間に皺を寄せる。 しかしその表情はさながら哀れんでいるようにも見えて、平井は衝動的に殴りかかっていた。 「あっぶねー、洋介、お前腕上げたんじゃね?」 喧嘩で一度も俺に勝てた事ないのにな。 言外にそう含まれて、平井の頭の中がいっぱいいっぱいに逼迫する。いわゆるキャパオーバーというものだ。 あわてたように止めに入ってくる周りを制して、内原は一歩また一歩と後退する。 「今のお前は一人じゃダメだな、洋介」 「知ってる、だからこうして−」 「特効薬を連れて来てやろう」 言うが早いか、内原はしたり顔で指をパチンと鳴らした。 その姿はまるでマジシャンが種明かしをするが如く。 何をしているのだ、と顔を上げた平井の目の前に現れたその人物は。 「……来ちゃった」 今会いたくない人ナンバー1の八年来の親友、東江夏夫だ。 彼は、いつぞや平井が言った言葉を再現しているかのようだった。 仕組まれた運命でも、むしろ全てを知った事で平井へと好意を向けるのであれば、幼なじみは全力で協力するだけなのである。 頑張れよ、と内原に肩を叩かれた東江は、すれ違うように一歩ずつ前進してくる。 その間、射抜くような目は一切こちらから反らす事はなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |