オレンジ信号機 7 東江は、その相手がそうとは全く思いもしないようで、ペラペラと目の前の非行少年に持論を述べる。 「僕にも親友がいるんだけどね。あ、でも親友なんて言ったら本人は馬鹿にするんだけど−でもそれでもやっぱり会えないと心配でさ、ずっと何してるんだろうって考えちゃったりして。そんな気持ち、君も他の人にさせちゃう事になるんだよ」 「俺の気持ちは無視で?」 「何か思っている事があるなら正直に話してみなよ!多分大丈夫だよ」 「多分ってなんだよ〜……でもま、ありがとな」 そうして平井は夏夫に“助けを求めて”と尋ねる事になるのだが、その多分が叶う事は、ついぞなかった。 東江を自室に軟禁して二日。授業を終えた平井はうきうき気分で自室のドアを開けるも−すぐにその違和感に気がついた。 内側から開かない筈の、右側の部屋。 東江を閉じこめた筈の、その部屋のドアが、家主を出迎えるように開封されている。 (なんでなんでなんで、) 行儀悪く靴を投げ出して慌ててそこへと駆け寄る。 東江の匂いにまじって、あまり覚えのない香りが少し残っているような気がする。 呆然と立ち尽くす平井は、ベッドの上の綺麗に折り畳まれた羽毛布を見つめて、ふと気がついた。 中庭に呼び出された時と同じように、二つ折りの手紙がある。 震える指で、両手でそれに触れると、角のしっかりとした独特の文字が目に入った。 −このままじゃ洋介も僕も駄目になるから。 あと出席日数も心配だから。 とにかく僕はここを出ます。 また中庭で待ってるから、そこで話そう− 「何だよこれ……」 ここに来る途中、中庭を通った時に既に彼はそこに居たと言う事か? 何故自分は気がつかなかった? それよりも、何故東江は都合の良いように動かない……? 「こんなの、俺の夏夫じゃない」 手紙を引き裂いて、ゴミ箱の中へと無理矢理詰め込む。 その瞬間、ほのかに残るもう一つの香りの正体に心当たった。 「……そうか、哲也が手引きしてたのか」 思えば東江から携帯電話を取り上げるのを忘れていた。 あっても他に連絡を取るような相手もいないと踏んだ自分の計算ミスだ。 恐らく、平井の見ていない所でSOSを出していたのだろう。 (この次は携帯も取り上げて、もっと簡単には出られないようにしなきゃ) 羽毛布を三度殴りつけて、その部屋を後にする。目的は簡単、なくしたものを取り戻す為、そして二度と自分以外を見せない為に。 「お待たせ、夏夫」 後ろから突然現れた平井に、東江は体をひきつらせて驚いた。 テラス席を確認すると、東江を挟むように、内原と小峰が座っており、まるでガードするかのごとくこちらへ手を出している。 「……ハッ、まるでお姫様みたいじゃないか夏夫、嬉しい?」 「ヨースケは、僕を通して何を見てるの」 「はぁ?人に助けられないと俺に質問も出来ないのかよ」 挑発するように顎を上げると、東江は立ち上がり、両サイドの友人達に頭を下げてこちらへと近づく。 「前回もそうだけど、僕一人じゃどうしようもない時は、助けられちゃう事もあるよ」 「……俺には求めない癖にな」 戦いの火蓋が、切られようとしている。 [*前へ][次へ#] [戻る] |