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オレンジ信号機

 この学園寮七〇八号室。そこは仁神の部屋であり、別学年が共同生活をする極めて珍しい場所だ。
基本的に外部から受験してくる者はほとんどいないもので、中等部から継続して同室を希望するか、または双方同意の上で新規に部屋を構える形となっている。

仁神はカードキーを片手にドアまで接近する。隣接するネームプレートに描かれた自分と彼の名前を見て、心が落ち着いた。

(なんか結婚して一緒にすんでるみたいじゃないっすか)
そう言ったら、先輩はきっと怒るだろうが。
それでも生徒会の人間なのに一人部屋という選択肢があろうと自分を選んでくれた事は誇ってもいいのかも知れない。

「イノウェイ先輩は寂しがり屋っすからね〜」
「何か言いました?にかみん」

玄関ドアを開けはなってわざとらしく大げさに足を踏み入れると、同質者−井上依(いのうえより)が怪訝な表情でスリッパを差し出してきた。
いつも通りそれを受け取ると、いいえ、と仁神は笑う。

 「それにしてもさ、あれはやりすぎだったんじゃないっすか?」
井上は先日、問題を起こして寮で謹慎中だ。生徒会もリコールされている最中で、今週末にも審議の結果が出るらしい。
仁神はあくまで親衛隊側の人間だから、子細は聞き及んではいないが。

「だっておかしいじゃないですか。哲也だって洋介だって浮かばれませんよ」
「まぁ、一人くらいは敵がいてもいいとは思っすけど」
それは自分の役目だと、東江少年がくる前に約束した筈だった。
仁神自身、東江夏夫を嫌っている訳ではないし、きっと話せば意外とウマもあうかも知れない。しかしそれでも、目の前のこの人物がノーと言うのであれば、そちらを優先するのが仁神という人物だった。

「でも暴力に訴えかけるのは井上先輩らしくないっす」
「私らしさって、仁神君に何が分かるっていうんですか」
「分からないんすよ。ブティックいのうえの一人息子って事くらいしか」
「今それは関係ないでしょう」

話がそれたな。と自分でも思いながら仁神は続ける。先ほどの通り仁神は東江の事をさほど嫌ってはいないのだ。興味がないだけで。
だからこそ、自分が誰よりも敬愛する内原哲也にとって大事であろう存在を傷つけた事が解せなかった。

「警告はちゃんとしたじゃないすか。今更何が不満だったんっすか?」
「別に貴方に許して貰わなくても結構ですから」
「許さないっす。内原さんの分も一生恨むかも知れない」

一生、と呟いて井上は少しだけ冷静になったようで黙ってしまう。
誰に向けてのアピールなのかお下げに結われた明るい色の髪が小さく垂れる。

「誰かの一番になるって、どうしてこうも難しいんでしょうか」
「先輩は欲しがりっすね、目の前の人からいつでも一番貰ってるじゃないすか」
「にかみんは嘘つきですからね」

本当に信じていないという表情で井上は笑う。
確かに、一番好意を頂いているのは井上だが、それ以上に内原への憧れが強いのが仁神なのだ。

(それにしても……)
と仁神は自室で一人思案する。
どうにも最近、周りの人物が泥沼化してきているような気がしてならないのだ。

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