透明光速 五月01 五月と言うのは、春と梅雨の間で何だか少し暑苦しい。 「流石にセーターは春までだよタナカ君」 そう言いながらクラスメイトは、自らと同じベストをちゃっかり勧めてくる。そんなに俺とお揃いになりたいのか。 このクラスは教師の方針で席替えがない。 しかし、授業中でも構う事なく席を移動する生徒が多いため、グループになる事もなく全体的に仲が良い。 じりじりとした暑さが教室を包むがクーラーが使えるのは衣替え以降だ。 それまでの一ヶ月と少しを、生徒は拷問の様な気持ちで過ごすのだった。 下敷きで熱を逃がして居ると、不意に加瀬がこちらを向いた。 その手には主婦向けの雑誌が握られている。対象年齢がおかしいぞ。 「えっとなんだ、その、花嫁修業?」 「違うよ。こう言う本に載ってる料理って初心者にも優しいからさー」 タナカの練習の為に俺は勉強してるのさっ、と加瀬は胸を張る。 そうなのだ。料理部に入部したあの日から、加瀬は俺に料理を教えてくれている。もちろん、初歩的な事からだが。 『米研ぎに洗剤なんていらないよ!』 『何ですぐ裏返そうとするの!』 『あーあー焦がしちゃってー!』 今思えば結構厳しい気がするし、良くまあ付き合ってくれてるもんだと思う。 ありがとな。恥ずかしいからあまり言葉にはしないが、いつかうまいもん食わせてぎゃふんと言わせたい。 そう俺は考えていた。 「センセ、今日は何作るんですか」 部活の話をする時は、何時もそう呼んでいる。 すっかり慣れたもんやなぁ……とクラスメイトは遠い目で俺を見つめてきた。気持ち悪い。 [*前][次#] [戻る] |