11周年記念物語「人魚姫の想い歌」 2 「……お前、また怪しい商品でも作って試してるのか?」 商人の名家の当主の右腕として働くフィルは仕事として……いや、趣味といっていい、商品開発といってはあらゆるものを開発して、オレを実験台にして試す。 試されて良かったことがほとんどなく、開ける前から恐ろしい宝箱を渡されるような思いをいつもさせられる。 そんなフィルに的確なことを言われて、人の心を調べるものを開発して、それを試しに使ってみたのかと思ったが、 「いいえ、コウキがわかりやすいのですよ」 にっこり笑顔で断言された。少し、いやかなり複雑だった。 「……もういい。そんなことより、今はこっちだな」 「そうですね」 フィルと話している最中も、水の触手の攻撃は止まることがなかった。 かわしたり、槍で水を斬ったりするが……いくら特殊な力を込めて斬っているとはいえ、水を完全に断つことは出来ない。 クウちゃんたちも同じようで苦戦していた。こちらも同じ状況なので、援護は出来ないし、援護をする余裕もない。 「さあて、どうしたもんかね……」 かわして、一息ついた時だった。 横から、水の触手が迫っていた。斬るのも、かわすのも間に合わない。 「コウキ!」 ミコトが悲鳴のようにオレを呼ぶ。 水の触手がオレの目の前に迫る寸前、たちまち凍りついた。 「……っ!?」 急に水が凍りついたことに驚いていると、後ろから現れた人影が凍りついたものを斬った。 それは見覚えがある人物だった。 「……レイ」 その人物の名前を呟く。 青髪の少年、レイは慣れた手つきで、二本の剣を軽く振る。紫の瞳でオレを冷たく一瞥して、 「……この程度の攻撃をかわせないなんて、まだまだガキだな」 そう吐き捨てて、ミコトのところへ向かった。 「あ、あの野郎……」 助けてもらった感謝よりも、今すぐ追いかけていって、一発殴りたい衝動が湧き上がってくる。 「どうやら、間に合ったみたいだね」 後ろから、緊張感のないのんきな声が聞こえてきた。 見ると、そこには知っている人たちがいた。 「まさにヒロインのピンチに登場する正義の味方、って感じですわね」 薄紫色の髪を特徴的に結んだ少女が嬉しそうに言った。 「姫。コウキくんは男ですから、ヒロインと言っては失礼ですよ」 少女の後ろに控えていた金髪の長身の男性がたしなめる。 「でしたら……リーダーの赤ヒーローのピンチを救う謎の戦士、紫ヒーローと訂正したほうがよろしいのかしら?」 「リーダーが赤で、謎の戦士が紫と決めつけるその考えには賛成しかねます。現にコウキくんは赤ではなく、黒か青のどちらかですし」 「それもそうですわね。団長のユイオスだって服とマントが青色ですものね」 「私が青色の服とマントを着ているのは、騎士団の制服をデザインした姫のせいですよ」 ヒーローのリーダーの色とか謎の戦士の色とか、今はどうでもいいと思うのはオレだけだろうか。というか、今は戦闘中で、そんな話をしている場合じゃねーだろと思いっきりツッコミたい。 「姫、団長。今はそういう話をしている場合ではないと思います」 その二人の後ろに立つ、黒髪のポニーテールの女性が意見する。 「団長。もし今の制服に不満があるのなら、あとで議会に意見書を提出してください」 そういう話でもないような気がする。と言い出いけど、ポニーテールの女性があまりにも真面目な態度で言うのでツッコむことが出来ない。 真面目な女性の顔を見て、金髪の男性、ユイオスさんは嬉しそうに笑った。 ……注意されているのに、何で嬉しそうなんだろう。全くわからない。 「キサラの言う通りに意見書を出すかはこの場を片付けたら、考えることにするよ。考えをまとめるためにもさっさと片付けないとね。クウさんたちのほうはシューイに任せるよ」 シューイと呼ばれた銀髪の少年は、ユイオスさんに頷くと、クウちゃんたちのほうへ走っていった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |