11周年記念物語「人魚姫の想い歌」
3
一方、ポニーテールの女性、キサラさんは腰のホルスターから拳銃を取り出すと、水の触手を撃った。
銃弾を受けた水の触手は、ぱあんと音を立てて、弾け散って完全に消えた。
「対水属性用の弾丸ですが、不測の事態のため、弾丸は十分にありません。話は手短にお願いします」
キサラさんはそう告げると、水の触手に向き合った。
「ってことだから、手短に話を聞こうか」
「えっと、その前に何でユイオスさんたちがここに? それにソフィアやミルとマルたちも……」
ここに現れたのはクウちゃんの知り合いであるユイオスさんたちだけでなく、オレの知り合いで、フィルの姉であるソフィア、そのソフィアとフィルに仕える双子のミルとマルの姿もあった。
ついでに言えば、レイの野郎もオレたちの知り合いだ。
何でユイオスさんたちと一緒にここに来た理由を聞こうと思ったら、ミルとマルが「若様〜」と声を揃えて、フィルに駆け寄った。
「若様、お怪我はないです?」
マルが心配そうに聞く。
「大丈夫ですよ、マル」
「若様が無事で何よりなの」
ミルがぎゅっとフィルに抱き着く。
ミルとマルは話そっちのけでフィルの無事を確認している。そんな二人を見守っていたソフィアが苦笑しながら、説明してくれた。
「思ったよりも早く用事が済んで時間が空いて、その時間をどうしようかとしたところ、ミルとマルがお前たちと一緒におかしを食べたいというのでショーコ殿の店へ向かったんだ。その道中で、同じくショーコ殿の店に行こうとしていたサリサ殿たちに会った」
サリサというのは正義の登場っぽいと喜んでいた薄紫色の髪の少女のことである。
ユイオスさん、シューイ、キサラさんからは姫と呼ばれていて、といってもどこかのお城のお姫様というわけでなく、愛称でそう呼んでいるらしい。
「サリサ殿たちと一緒に店に行ったら、コウキたちどころか、店の主であるショーコ殿もいなくて、どうしたものかと話していた時にリーフ殿たちが異常を感じ取ったんだ」
リーフというのはクウちゃんの親代わりをしている大地の精霊で、今はシューイと同じく、クウちゃんたちのところへ向かっていた。
「リーフ殿たちの話から、ただごとではないと思い、店を出たのだが……」
「リーフさんったら、なかなかここを探り当てられなくて、わたくしたち迷ってしまいましたの。おかげで本編での到着が出来なくて、こうして番外編登場になってしまったというわけですわ」
サリサちゃんの文句っぽい説明に
「それは違うありゅ〜! もう一人の大地の精霊のいい加減のせいありゅ〜!」
クウちゃんたちのところにいるリーフが離れているのに聞こえたらしく、叫んで反論した。
「もう一人の大地の精霊って……」
と、地面が盛り上がり、何かが出てきた。それは蔦だった。
無数の蔦が地面から飛び出すよう出ると、オレたちと森の木々を守る壁となって水の触手の攻撃を遮った。
こんなことが出来るのは……
「こんにちはー」
思った通り、空の森の大地の精霊、タムタムだ。
タムタムは次々と蔦を出しては、壁を作ったり、蔦をムチのように操って断ち切ったりして、水の触手を阻んだ。
その反対側では水の触手が次々と氷の結晶となっていた。
それをやったのはタムタムと同じく空の森の氷の精霊のクウだった。
……面倒くさいことにクウシェイルスことクウちゃんと同じ名前なので、この二人(精霊のほうはペンギンだから、正確には一人と一匹というのが正しいのか)を呼ぶのにちょっと、いやかなり困っている。
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