・10 「呆れた……」 「呆れたって何よ」 真紀の反応に不満たっぷりの佳奈が反論しようとすると、突然第三者の声が割り込んできた。 「ご注文、お決まりですか?」 驚いて顔を上げると、やわらかな笑顔の男性。小さなフレームの眼鏡の奥で微笑む目には、無意識にこちらも笑顔になってしまいそうな力があった。 「あ、ウィンナーコーヒーひとつ。佳奈ちゃんは?」 「同じのでいい」 「すみません、じゃウィンナーコーヒーふたつで」 「畏まりました」 男性が厨房に入って行ったのを見計らって、佳奈がずいと身を乗り出す。 「ちょっと、さっきのは聞き捨てならないんだけど?」 「だってそうでしょ? わざわざ男の子見るためだけにお店来るなんて。大体、佳奈ちゃん彼氏いるでしょ」 すると佳奈は長い髪を掻き上げて得意気に言う。 「それはそれ、これはこれよ。デザートは別腹っていうでしょ」 「意味分かんない」 佳奈の男好きは今にはじまったことではない。大学入学当初から、佳奈の周りにはたくさんの男がいた。 親しげな人から、服従しているような人まで。その中の誰かが彼氏なのか、と聞いたら、全く別の人を紹介された。 [*back][next#] |