7
「ん〜じゃあいいや」
無いものを出せなんて無理な話だ。私は諦めて階段を上がった。
二階に上がってすぐの自室に入ると、鞄を放り投げてベッドに倒れこんだ。静かな部屋。ふっと寝てしまいそうになった瞬間、扉がノックされた。
「はい」
「遥? 今いい?」
扉から顔を覗かせたお母さんが見えたので、私は体を起こした。
「浴衣ね、お母さんのだったらあるんだけど」
「あ」
「あんたも大きくなったし、多分私のサイズでも大丈夫だと思うんだけど。どうする?」
お母さんの浴衣といえば、紺地に黄色い花の、ちょっと大人っぽいやつだ。
私に、似合うだろうか。
「んー……」
「とりあえず着てみる? 合わないようだったら、やめればいいし」
確かに、無くて元々だったのだから、着てみるだけでもいいかもしれない。
「うん、じゃあ着てみる」
答えると、お母さんはどこか嬉しそうに笑った。母親としては、娘が自分の服を着るのは楽しみなことなのかもしれない。
「じゃあ用意しとくから」
「うん。今度の土曜までに着られればいいよ」
「土曜?」
「うん」
お母さんは部屋の壁にかかったカレンダーを見て頷いた。
[*back][next#]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!