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「ただいまー」
「おかえり」
いつものように帰宅すると、リビングからくぐもった声が返ってきた。
階段を登る前に覗くと、煎餅を頬張ったお母さんがテレビを見ていた。
「ただいま」
「おかえり」
顔を見てまた同じやり取り。
私はテレビをちらっと見て、大して興味がないドラマの再放送だったので予定通り二階に上がろうとした。
と、思いついて引き返す。
「お母さん」
「何、遥」
「浴衣ってどこにしまったっけ?」
「浴衣? どうしたの急に」
「いや、どこにしまったかと思って」
お母さんは煎餅を咀嚼しながら考える。うーん、と唸ってから、
「無いわよ」
と答えた。
「無い?」
「だってあんた着ないっていうから、川原さんとこの由佳ちゃんにあげちゃったわよ」
「なんでそんな勝手なことするの」
「勝手って……それにもう小学校のときのよ? もう着れないでしょ」
「…………」
確かに、最後に浴衣を着たのがいつか覚えていない。覚えていないということは、よっぽど昔であり、興味もなかったのだろう。
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