[携帯モード] [URL送信]



「智実さん……?」


 小さく名前を呼ばれる。

 でもごめん。これ以上は、きっと私“大人”でいられない。


「……そろそろシフト始まるよね。準備しなきゃ」

「そう、ですね」


 いそいそと片付けて制服にエプロンをつける。雅之くんの片付けが終わる頃には、私は控え室を出た。

 嫌な人間。なんでこんなにムキになっているんだろう。

 頭の片隅では分かってる。これはきっと嫉妬だ。

 年上なのに何もできない自分が、年下なのに何でもできる雅之くんに嫉妬している。

 バイトのことだけならまだしも、こんなところで差を見せつけられたみたいで悔しかったんだ。


(……大人気ないことに変わりはないか)


 小さく、重いため息。淀む先は、目に見えない。見えないからこそ感じる。この劣等感は、今にはじまったことじゃない。つい口に出てしまうほど、知らない内に溜まっていた。


 ──私って、嫌な人間……。


 その日のバイトでは、いつものような雑談は一度もなかった。

[*back][next#]

9/24ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!