8 「だってやっぱりオールマイティーにできた方がいいじゃん。雅之くんみたく」 「…………」 数学だって古典だってバイトだって、結局できてしまう雅之くんが羨ましい。 私は文系のくせに英単語の一つひとつに悩まされ、コンビニのレジ打ちさえたまに間違える。 こんなんで、いいわけない。 「智実さんは智実さんのままでいいと思いますよ」 そんな私の心を見透かしたように、雅之くんが笑顔を向ける。 年下に励まされる私。やっぱり、そうだ、あれだよ、 ──“情けない”。 「いいよ、そんな気遣わなくて」 出た言葉は、思いの外強かったかもしれない。 でも出ちゃった。その言葉が耳から入り、また次の言葉を生み出す。 目を丸くしてる、雅之くんに向けて。 「ほんとのことだし。二十歳にもなって、情けないよね、こんなで。分かってるから、別に無理して励まさなくていいよ」 遠慮なんかじゃなくて、謙遜なんかじゃなくて。むしろこれは拒絶。 雅之くんの優しい言葉が、今はただちくちく刺さる。 私って情けない。分かってるはずなのに、自覚させられるのが嫌だった。 [*back][next#] |