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「ん〜じゃあいいや」


 無いものを出せなんて無理な話だ。私は諦めて階段を上がった。

 二階に上がってすぐの自室に入ると、鞄を放り投げてベッドに倒れこんだ。静かな部屋。ふっと寝てしまいそうになった瞬間、扉がノックされた。


「はい」

「遥? 今いい?」


 扉から顔を覗かせたお母さんが見えたので、私は体を起こした。


「浴衣ね、お母さんのだったらあるんだけど」

「あ」

「あんたも大きくなったし、多分私のサイズでも大丈夫だと思うんだけど。どうする?」


 お母さんの浴衣といえば、紺地に黄色い花の、ちょっと大人っぽいやつだ。

 私に、似合うだろうか。


「んー……」

「とりあえず着てみる? 合わないようだったら、やめればいいし」


 確かに、無くて元々だったのだから、着てみるだけでもいいかもしれない。


「うん、じゃあ着てみる」


 答えると、お母さんはどこか嬉しそうに笑った。母親としては、娘が自分の服を着るのは楽しみなことなのかもしれない。


「じゃあ用意しとくから」

「うん。今度の土曜までに着られればいいよ」

「土曜?」

「うん」


 お母さんは部屋の壁にかかったカレンダーを見て頷いた。

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