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「着付けしてもらったんですけど、慣れてないから動きづらくて……もっと早く来るつもりだったんですけど」

「いや、別に遅刻したわけじゃないし、俺も早く着きすぎたから」

「そう、ですか?」


 不安そうに僕を見上げる浴衣少女、もとい遥は、僕がコクコクと頷いたのを見て笑顔を零した。

 いつもと違う、遥の目線。急いで来たのか、頬が赤いし、前髪が汗で額に貼りついている。見慣れない、なんというか艶やかな姿に、僕は敢えて視線を反らした。


「じゃ、行こっか」


 歩きだす僕の後ろを遥がついてくる。いつもとは違う距離感。歩きづらそうな足元に気付いて、目立たないように歩幅を調整する。


「今日、浴衣なんだな」


 見れば分かるだろ、と自分で突っ込みを入れつつも、何か会話をと急かす自分もいる。

 すると遥は、必死になって動かしていた足から視線を上げて、にこっと微笑む。笑顔はいつもの遥だ。


「はい。あ、これお母さんのなんですけど」

「そうなの?」

「私のは、もう着れないし近所の子にあげちゃったので」


 はにかみながら答える遥。僕は浴衣を改めて見た。

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