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 春も終わりかけだ、並木道を見てそんなことを考えながら、すずの小さな後ろ姿について行く。
 北条家に忍び込む作戦には、元々住んでいたすずの力が必要だとうことで、俺も夏希も渋々すずを連れてきた。
 らぶには連れてくるなと言われたが……事がことだ。俺たちにはそんな余裕は残っていなかった。
 特に、夏希。
「兄ちゃん、ちゃんとついて来てる?」
「ああ、大丈夫だ……」
 夏希のこの目を、俺は一度川原で見ている。
 どうにか北条無月と鉢合わせすることなく、逃げ切らなければ。
「春馬様、夏希様、ここです」
 すずが立ち止まったのは、立派な塀が続く一角。すずの話だとゴミ処理場前らしかった。
 幸いなことに、ここだけはほかの塀よりも低めに建てられている。
「ここならカメラはありません」
「乗り越えられれば、とりあえず敷地内には入れるってことか」
 言うと、すずは神妙に頷いてみせた。
「けれど、この先にも危険な場所はたくさんあります。どうか僕のそばを離れないように」
「……わかった」
 夏希も頷いた。それを合図に、すずがとん、と飛躍した。
「……!」
 あの小柄な体からは想像もできないその跳躍に言葉を失っていると、すずが急いで、と合図を送る。
「あ、ああ、夏希、肩に乗れ」
「うん」
 夏希の運動神経を見越せば、この壁は余裕だ。
 すずが向こう側に降りると入れ替えに、夏希も塀を飛び越える。
「兄ちゃん、こっち側は大丈夫みたい」
「わかった、今行く」
 ギリギリ、手が届いた。渾身の力で塀を上り、すぐに飛び降りる。降りた場所は草むらだった。
「ここから、あの扉まで走ります。今の時間ならメイドさんが行き来するので開いているはずです」
「おい、見つかったりしないか」
「朝のゴミ出しと昼のゴミ出しのあいだは開いてることが多いだけで、今は来ないと思います。昼の時間まではまだありますから」
 さすが、ここにずっと住んでいただけある。
 しかしいくらそうでも、こんなことまで記憶してるものなのか。
 すずとらぶは外に出してもらえなかったといっていた。それは、どれくらいの時間なんだろう。
「昼前のこの時間は、豪華な昼食を用意してるはずです。人手は薄くなります」



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