4 「ねぇ、ルカ。ここの英語の発音を……」 「お黙りなさい、旧式。」 「……は?」 ルカがメンテナンスから帰ってきてから、おかしくなりました。 *** 「メイコお姉ちゃん!ルカちゃんが、ミクの事ネギ臭いとか言いはじめたよー…!」 そう泣きながら訴えるミク。 いつもは優しく歌のコツを教えていたルカにいきなり暴言を吐かれれば、それは泣きたくもなるだろう。 私は大きくため息をついた。 「ミク。ルカっていつからおかしくなったっけ?」 「えっと……多分メンテナンスの後くらい。」 「じゃあ整備士に来てもらうしかないわね……」 今から電話すれば、あと2時間くらいで来てくれるわよ、というと ミクは泣きそうになった。 「あと2時間もあのルカちゃんに堪えなきゃいけないの!?」 「……そうなるわね。」 「無理だよ…!一言のダメージが大きすぎて、あと2時間も聞いてるなんて堪えられないよー!」 まあ、ミクが訴えるのも無理はない。 私だってあのルカとは、2時間も過ごしたくない。 「じゃあ私が面倒みておくから、ミクはリンとレン連れて、遊びにいってきなさい。」 「い、いいの!?メイコお姉ちゃん辛くないの?」 「仕方ないじゃない。被害は少ない方がいいもの。」 *** 「ルカ。あと2時間したらもう一度メンテナンスするからね。」 「……」 「ちょっと、聞いてるの?」 「黙りなさい。旧式の声なんて耳障りだわ。」 冷たい瞳に睨まれ、思わず言葉に詰まった。 「…あんたそういう態度やめなさい。感じ悪いわよ。」 「下劣な貴女には関係ありませんね。」 「……っ、関係あるわよ。」 「はぁ?」 不機嫌そうに言うルカに胸が痛んだ。 いつもなら自分に決して向けられる事の無い顔なだけに、その分ショックも大きい。 ミク達が泣きを入れるのも頷ける。 「……なんなの。」 黙った私を不審に思ったのか、ルカはなんとも面倒臭そうにため息をつく。 「どうして貴女は私に構うのでしょう…?ハッキリ言って迷惑でしかありませんね。」 またもきつい言葉に怯む。 しかし私も何か言い返したくて、咄嗟に 「だって私はあんたの……こ、恋人だから。」 と言ってしまった。 ルカは一瞬驚いた様子だったが、すぐに嫌悪の瞳をこちらに向けた。 「貴女、そういうご趣味をお持ちなのね。」 「ち、違う!あんたに流されてそうなっただけで……」 「私に?見苦しい言い訳ね。生憎私にはそのような愚劣な趣味はないわよ。」 その言葉を聞いた瞬間、 ブチンッ…と私の中で何かが切れる音がした。 「あんたねぇ!!いい加減にしなさいよっ!!」 思わずルカを押し倒す。 固いフローリングの床にルカの背中が強く打ち付けられた音がしたが、 今は労っている余裕は無かった。 「痛……何をするのよ?」 「何じゃないわ。あんた……多分あと2時間後にさっき言った言葉、後悔するでしょうね。」 「はぁ?あんた頭おかしいんじゃない。」 おかしいのは絶対にルカよ……と思いつつも、もう少しすれば現れるであろう整備士を待つことにしたのだった。 正常に戻ったルカの焦る反応を期待しながら。 *** 後日。ルカは元に戻った。 どうやらメンテナンスによる、記憶障害バグだったようで整備士も平謝りですぐに直してくれた。 つまりはあの時のルカは、やはり今までの記憶は無かったようだ。 しかし今のルカは、私たっての希望でバグが起きた時の記憶を残してもらったのだった。 「メイコさーん、おつまみです!」 「あら、ありがと。」 小鉢に入った揚げ出し豆腐をルカから受け取り、私はまた酒を手にとった。 「メ、メイコさんー、最近ご無沙汰ですよね……?」 「何がご無沙汰なのかしらね」 そう私はわざとらしく笑いながら言った。 「惚けないで下さいよー。メイコさん。」 「あら、あんた愚劣な趣味は無いって言ってたから、てっきり私に興味無くしたとばっかり……」 「ちょ、それはバグで仕方なくて…!行かないで下さいよメイコさーん。」 仕返しはきっちりと。 もちろん本心などでは無い。 けれど、あの時のルカの言葉が今も胸に残っていた。 「結構悲しかったんだからね……バカルカ……」 ルカに聞こえないように呟いた。 ・*・*・*・*・*・*・*・ まゆーむさんリクエストのルカが急に冷たくなる話でした! バグがいいとの事でしたが、メンテナンスバグ……ってありですかね? ツンルカ書いていて楽しかったです! まゆーむさんリクエストありがとうございましたー! [*前へ][次へ#] |