[携帯モード] [URL送信]
優しいだけじゃ嫌[ルカメイ]

幸せとは何だと問われれば、今のこの状況だと私は言うだろう。
それほどまでに私、巡音ルカは胸の辺りがむず痒くなるような幸せに包まれていた。
カーテンを少し揺らす心地好い風に、先程昼食に食べたメイコさんお手製のパエリア、それと私の太股を枕にしソファーで眠るメイコさん。
時々うつ寝返りや、すうすうと規則正しい寝息は、私に幸せだと感じさせるには十分だった。また、いつもなら中々警戒して私の側で寝ないメイコさんが、安心しきった様子で熟睡している事も堪らなく嬉しいのだ。


「ふふ…子供みたいな寝顔…」

その無防備で、私よりも体温が少し高めの頬を愛おしみながら撫でれば、
少し呻いて体を小さくよじるメイコさん。
そんな仕種一つ一つが堪らなく可愛らしく、愛おしく思えた。
普段は私が直接的に愛を伝えれば迷惑そうに寄せる眉も、いやだやめて気持ち悪いとしか連ねない唇も、今だけは全て私だけの宝物のように思えるのだから始末が悪い。

メイコさんの些細な表情の変化も見落とすまいと、メイコさんの寝顔を見つめる。
すると、彼女の形の整った目尻から一筋の雫がこぼれ落ちた。
ギョッとして目を丸くすれば、その雫はさらに溢れてきた。メイコさんは泣いているのだった。


「メ、メイコさん…!?どこか具合でも悪いのですか!?」

どうにか驚きで鈍る頭を奮い立たせ、私は自分の膝の上で泣くメイコさんを揺さぶった。
するとしばらくしてメイコさんは、またうめき声をあげ、今度は迷惑そうに

「なによ…人が気持ち良く寝てたのに…」

と不機嫌そうな声音で呟いた。
ここで私は少し安心する。なにしろメイコさんは普段あまり不用意に泣いたりはしない。持ち前の姐御肌というキャラのせいか、いつも気丈に振る舞っている。そのためか、私にはメイコさんが泣く事は、つまり非常事態のようにすら思えたのだ。

「い、いえ…その、メイコさんが泣いていましたから…」
「泣いてた?私が?」
「ええ。ほら、鏡見て下さい。」

私が手鏡を差し出せば、それを覗きこんだメイコさんはしまったというような顔をした。

「なにか嫌な夢でも…?」
「なんでもないわよ、…なんでもないから。」
「メイコさんが泣くなんて珍しいですね。」

なぜ泣いていたの?なんて聞けない私を、全て見透かしたようにメイコさんは少し笑う。
そして私の膝に温もりを残したまま、静かに起き上がった。

「ルカの夢を見たのよ。」
「私の夢を…?」
「うん。あんたが、私に優しくなる夢。」
思わず漏れる苦笑。
今時夢で泣いてしまうメイコさんなんて、可愛らしいななんて思っていた私だったが、まるで現実は違うというような言い回しをされて少し悲しくなる。

私はメイコさんに今までしてきた事を思い出す。どれもかなり自分の感情に身を任せたものばかりであり、メイコさんはいつだって拒絶の言葉を吐いていた。


「すみません…私、いつもメイコさんの気持ちも考えずに…」
「まあ、あんたって変態だしね。」
「メイコさん限定の変態です!」

私が念を押すように言えば、メイコさんからまた苦笑が漏れる。


「あのね、さっきみた夢の中のルカはね、すごく優しかったのよ。」
「…はい。」
「ずっと私の近くにいて笑ってて、いい姉妹でありいい友達だったわ。勿論、風呂に乱入したり下着嗅いだりはしなかった訳よ。」


ああメイコさんの笑顔が恐ろしい、と心底私は思う。先程の通り、私は正座した状態なのでメイコさんが余計に威圧的に見えてしまう。
しかし、すみませんと謝ろうとしたその唇はメイコによって塞がれてしまった。


「でも、分かったの。やっぱり変態でどうしようもなくて手のかかるルカが好きだって。」
「……へ?」

我ながら情けない声が漏れる。
状況についていけていない私を尻目に、メイコさんはさらに続けた。


「だって優しいだけじゃ、ルカじゃないもの。そうでしょ…?」

優しいだけじゃ嫌だわ、と恥ずかしそうに呟くメイコさんに、私は先程感じた愛しさが込み上げてくるのを感じた。


「そ、そ、それって私達は両思いって事ですよね?ルカの初恋は叶ったって事?Why?」
「それはどうかしらね。」


悪戯に笑うメイコさんを見て、思わずメイコさんを抱きしめる。
やめてと騒ぐメイコさんの言葉を今だけは無視し、思い切りメイコさんの感触を味わう事にした。





・*・*・*・*・*・*・*・

優しいだけじゃ嫌!っていうのがやりたくて…それだけです。
変態ルカとそんなルカにドキドキしちゃうメイコのお話。なんだかんだと言いつつ、メイコは流され体質だと可愛いですね!
夢見て泣いちゃうお話も可愛いと思ったので、合わせちゃいましたー

変態ルカっぽくないですけど、キニシナイ。砂吐く程甘いのが書きたかった!

書いてて楽しかったです。



[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!