どこにも、塞がる[ルカメイ] 二人して買い物に行った帰り道。 朝からショッピングモールへ向かったはずなのに、いつのまにか辺りは夕焼けに染まっていた。 私とメイコさんは互いに両手に、二人で選んで買った洋服やら雑貨が詰まった紙袋を持っている。これでは手が繋げませんね、と私が笑えば、メイコさんも笑った。 他愛もない会話をしながら、歩みを進める。メイコさんが、今日お昼に食べたファーストフードの話しをするのを聞きながら、私もそれに同調し話しかける。 これが日常であり、幸せな休日の過ごし方であろう。 しかし、そんな私達の前に、あるものが立ちはだかった。 「…階段?」 メイコさんが小さく呟く。私がメイコさんの視線の先を見やれば、私達が進んでいた道の先には長い階段が待ち受けていた。 コンクリート造りのそれは、苦い表情をするメイコさんを嘲笑うかのように、無言で待ち受けていた。 「メイコさん!迂回しましょう…!こんな急な階段…」 急いで辺りを見回すが、迂回出来そうな道はなく、立ち並ぶのは民家のみで、通り抜けられそうにない。 元の道を戻るにしても、今までずっと一本道だったため、ほぼ不可能だ。 「大丈夫に決まってんでしょ。ルカは心配しすぎよ。」 「で、でも…」 「平気、へーき。さ、行くわよ。」 わざとらしく陽気に話すメイコさんにこう言われては、私は何も言い返せなくなる。 そうしている間に、メイコさんはずんずんと、この急で長い階段を登っていく。 私もそれに置いていかれないようにと、階段を登る事にした。 カツカツとブーツが、コンクリートを掠める音と、メイコさんの荒い息が私の耳に絶えず入ってくる。私は小さくため息をついてから、メイコさんの右手にあった紙袋を引ったくった。 「…あまり無理なさらないで下さい。荷物は私がお持ちしますから。」 「…そう?ありがとうね、ルカ。」 メイコさんは、ルカは優しいのね、と言ってからまた歩みを進めた。 「メイコさん、息乱れてますよ。」 「やっぱり私も年かしらね…」 「だから、ちゃんとメンテナンスを…!」 受けてください、という言葉は、メイコさんの唇によって奪われる。 思わずよろけそうになるメイコさんを、私が支えると、少しだけ悲しそうな顔をされた。 「物はいつか壊れんのよ。私は、もう壊れてしまいたい。」 「そんな…メンテナンス受けましょうよ…!だって、もうメイコさんの体は歩くのだって辛いはずですよ…」 「だから平気だってば。それに、老いぼれがいつまでもいたら、新しいボーカロイドのためにはならないのよ。」 だから分かってほしい、という顔をしたメイコさんは、それからまた微笑んだ。 メイコさんが気にかけているのは、ボーカロイドの発展。 新しいボーカロイドが次々と開発され、受け入れられて重宝されているこの時代、メイコさんは初代ボーカロイドとして圧倒的な発言力を持っていた。しかしそれは人気と比例したものでは、決してなかった。 いつだって人気が出るのは、優秀な新型のボーカロイド達。 そんなメイコさんを、心良く思わない人達も少なからず存在するのだ。 そのような状況をメイコさんは悟ったように、一切のメンテナンスを拒み、壊れるのをただ待っている。 「そんなの、きっと間違ってますよ…!壊れたいだなんて、そんな…」 「もう決めた事、だから。」 メイコさんのような、旧式ボーカロイドの場合、定期的なメンテナンスは欠かせない。 もしメンテナンスを受け続けなければ、関節部分から体が錆び始め、やがては体が動かせなくなる。 私はメイコさんがそんな状況になるのは、嫌だった。 それに…… 「メイコさんが壊れてしまったら…私は誰を好きになればいいんですか…?」 「ルカならいい人が沢山いるわ。」 「こんな風に一緒に買い物に…」 「きっと何でもしてくれるわよ、ルカは良い子だから。」 じんわりと目尻が熱くなり、夕日に照らされたメイコさんの顔が歪む。 「形あるモノはいつかは壊れるのよ。」 そう悲しそうに呟くメイコさんの涙を、拭ってあげられない、この荷物でふさがった両手が憎らしい。 それに、今すぐに貴女を抱き締めてあげられなくてもどかしいのだ。 しかし一番もどかしいのは、自分だ。 「形あるモノはいつか壊れる」という言葉を、否定しきれない自分が悔しくて、 小さく唇を噛んだ。 ・*・*・*・*・*・*・*・*・*・ もどかしい二人を書きたかった、はず。 どうしてこうなった。 悲しそうに笑うめーちゃんが好きなんですが、多様しすぎて訳分からん事に… 悲恋が好きです、いつかお別れしなきゃ…みたいな。 形あるものはいつか壊れる、ってよく聞きますが深い言葉ですよね。一応二人の関係も形だと考えると、いつかは崩れてしまうよ、という裏設定があったり…ゴニョ [*前へ][次へ#] |