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★an abnormal character(山ベル)

自分の想い人曰く、俺は、
『世界の半分も知らない幸せな奴』
…なんだそうだ。

それはそうかもしれない。

ただ知る機会なんてなかったのだから、
しょうがない事なんだと思う。

そこは多目に見て欲しい。

何よりマフィアなんて物騒なもの、
存在してるなんて考えた事もなかった。



「それって、裏社会が存在してる事だって夢にも思わなかったって事だろ?」


「いやぁ…」


「そりゃめでたいね」



そう言うと金髪の王子様は、
不貞腐れたように顔を背けてしまう。

完全に機嫌を損ねてしまったらしい。



「そんな怒るなよ。」


「別に、怒ってないし」


「そうか?」



宥める様に寝転ぶベルの隣に腰掛け、
フワフワ跳び跳ねる髪を指に絡ませる。

見た目のままに柔らかい金糸は、
触り心地も良よくてサラサラと流れる。


暫く沈黙のまま髪を弄っていると、
ベルが頼りない声で俺の名前を呼んだ。



「ん?」


「あのさ、初めて刀握った時、どんな気分だった?」



窮めて淡々と聞くベルは、
寝転がったまま下から見上げる状態。

前髪の隙間から見えた真っ赤な瞳が、
何かを探るように揺れていた。



「…ねぇ?」


「あー、うん。…まぁ、ちょっとは怖かったかもな。凶器なわけだし…」


「ふーん。」



嘘を言ってもしょうがないと思うと、
本音を言ってしまって直ぐに後悔した。

ベルの口が面白くないとヘの字に歪む。

…そう思ったのもつかの間、
予想外にも俯いて笑いだした。



「しし、っ…、あはは…!!!!」


「え?…あの、ベル?」


「や、ごめ…、なんかさ、やっぱりお前はこっちに来ちゃダメだったんだよ…」


「…なんで?」



ベルはクスリともう一度だけ笑い、
スルリとしなやかに俺の膝に乗り上げる。

首に細く頼りない腕を回して、
猫さながらにペロッと舌で唇を舐める。

挑発にのって目の前のベルに噛み付けば、
濡れた声とベルの匂いが支配する。

2つの息遣いと相手の甘い声が、
頭に響いて可笑しくなりそうだった。


「…っ、はぁ……ぅ、ん……」


「なぁ、ベル。さっきの、続きは?」


「ぁ…、ん、もぅ…、空気読めよ…」


「でも、気になる。」


「んー…」



何か考えるように力無く肩に凭れると、
ベルはゆっくりと溜め息をつく。

そして、また笑みを浮かべた。

ニヤリと効果音が付きそうな勢いで、



「俺が初めてナイフを握ったとき、すごい興奮したのね、」


「うん。」


「なんかさ、身体の中で何かがぞわってして…、うん、セックスみたいな感じ?」



『はぁ…』と色めいた溜め息を洩らし、
まるで最中かのように喉を鳴らす。

正直、そういう時のベルは、
やはり暗殺部隊の幹部なのだと思う。

求めるのは常に享楽や快感で、
逆に言えばそうでなきゃいけない。

楽しくなければ殺さないし、
気持ちよくなければ性行だってしない。


だから何気なく彼に手を伸ばした者は、
きっと指先から浸食されて最期。

止めどなく溢れる黒を受け止められず、
赤色に染められてしまうのだろう。


「わかんねぇーだろ?」


「正直な。」


「だからさ、お前と俺は違うのかも。」



首に回された深い黒に彩られた爪。

『もう、飽きた』というように、
ギリギリと食い込んでいく。


俺もその快楽の一部になれと言うなら、
別にそれでも構わないと思う。


でも、



「違わないよ。」


「…はぁ?」


「ベルはそれが性だけど、俺は罪と知っても人を斬ってるから。」


「…」


「どっちが残酷だと思う?」


「…ッ!やっぱお前、最高だよ!!」





嗚呼、その言葉に安堵。

俺は君無しでは生きていけない。

君の非情な性を目にする度に、
自分の罪など消えてしまう気がするから。

だから、ずっと傍にいて欲しい。

自分の罪を塗り潰すために、






君は俺の心の内など知らない。













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あきゅろす。
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