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履き潰したローファー

放課後

誰もよりつかないような廊下を抜けて、
薄暗い屋上への階段を駆け上がる。

目の端にチラリと映った窓が
綺麗なオレンジ色に染まっていた。




履き潰したローファー




かけあがった最後の数段に、
情けなくも息が上がる。

目の前の鉄の扉を押し開けると、
目が眩む程の夕日と冷たい風。


きっと時間に遅れたこと、
怒ってるんじゃないだろうか?

下校時間はとっくに過ぎているし、
帰ってしまったかもしれない。

眩しさに慣れ始めた目で、
コンクリートの周りを見渡した。



「やっぱり…、居ないか…」



溜め息と共にフェンスに向かい
夏特有の金属の生暖かさに額をつける。


すると、見つけてしまった。

さっきまで死角で見えなかった所に
無造作に置かれている鞄。

あれは確か…



「先輩、の…」



駆け寄ると、その先にはネクタイ、
そして左右の踵の潰れたローファー。

それらを広い集めながら進めば、
屋上の奥の日陰になった所。

壁に凭れる銀髪の横顔。



「っししし、先輩みーっけ!」



夕方の涼しげな風に吹かれ、
気持良さそうに眠るスクアーロ先輩。

長い銀髪は風に合わせて揺れて、
微かにシャンプーの匂いがフワリと漂う。

ネクタイのない第二まで開いたシャツ、
晒された鎖骨にドキドキする。


そんな風景にどこか疎外感を感じて、
そっと先輩の開いた脚の間に座る。

髪に指を通すとサラサラ流れていく。

以外にも長い睫毛だとか、
高い鼻だとか…

最終的に目が行ってしまったのは、
無防備に少しだけ開いた唇。

この口は、何時も自分に優しく喋り、
笑いかけたり、怒鳴りつけたり…

そして、

熱く溶けそうな
酷く欲張りなキスをする。


思い出しただけでも、
ゾクゾクと身体を走る快感。

熱い、

シャツが汗で背中に張り付いた。



「やば、い…、かも…」



熱っぽい溜め息が漏れ、
少しずつ引き寄せられる唇。

下からは運動部の掛け声が聞こえる。


あと3ミリ…

2ミリ…




「………ん…、ベル?」


「…ッ!!!」


「あっ、わりぃ、寝ちまった。」


「え?あ…、あー、大丈夫…」


あと1ミリのところで
綺麗な銀色の瞳を見せた先輩。

タイミングが悪ずきる、と
少しふてくされたのには気付かない。



「それ、全部拾ってきてくれたのか?」


「へ?」



抱えていた先輩の私物に気付くと、
『ありがとな』と笑顔。


嗚呼。

もし無計算でやってんならたちが悪い!

狡い、狡い、ずるい!



「ち、が…あの…、落ちてたから、偶々拾っただけ、だから…っ!」


「へぇ…」


あぁもう!
そんな勝ち誇った顔すんな!

自分でも分かるくらいに、
顔が熱くて真っ赤。

先輩は意地悪だ。



「ベル」


「は…、ぃ?」


唖然。

呼ばれた後の
ちょっと長めの沈黙。

咄嗟で目も瞑れないかった。



「したかったんだろ?……キス、」


「…っ!起きてたの!?」


「さぁな。」


「うわぁー!先輩うぜぇー!!」


「はぁ!?」



「バカ鮫ーっ!」


「う゛お゛ぉい!!落ち着けぇ!」



手にあった鞄やらネクタイやら靴やら、
投げつけながら貶してやる。

真っ赤になった空に向かって叫ぶと、
隣で先輩が声を上げて笑った。


あぁ、もう信じられない!

あんなキスで、
こんなに満たされるなんて…!!








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あきゅろす。
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