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透明度。
できること。



「僕がやったっていいたいのならどうぞ。どうせ無駄でしょうけれど」

周防くんは俺にそう早口で告げるとさっさとこの教室から出て行ってしまった。
呼び止める暇もなかった。
周防くんは俺が多分嫌いなんだと思う。
だって貫録のある先生の扱いと俺の扱いの差が凄い激しいし…。

それよりも…。


「言えない…よね。」

周防くんがやった、だなんて。
ああ、別に周防くんは優等生で一瀬くんは平気っぽそうだから言わないんじゃないよ。
俺が言いたいのはこのまま周防くんがあの掲示板に貼りつけたと言うことをみんなにばらしても根本的な解決にはならないんだよ。

それにきっと周防くんが言った通り、無駄なことになる。
あれはもう1学年のほとんどに行きわたってしまっている。仮に周防くんがやったと言っても一瀬くんをいじめるきっかけが出来てしまった以上、もう犯人がどうとかの話ではないんだ。
中高校生によくあるのは特別な人間…『異質な存在』を排除したがる、こと。
凄く頭が良かったり顔が良かったり運動神経が良かったりするといじめたがる…しかも一瀬くんの場合すべてあてはまる上、どこでばれたのか神崎学園から引っ越してきたと言うことも排除の対象になってしまった。
俺がもっと早く教室に向かったら、もしかしたらもっと一瀬くんにこれから起こるであろう被害はもっと防げたかもしれない。
……なんて、朝のことを悔やんでも戻ってくる訳ではない。
これからいかにして被害を防げ、なおかつ周防くんとちゃんと話が出来るか。
とりあえず今の状態の周防くんから話を聞いたとしてもまともに話を受け入れてくれるわけがないだろう。
一先ず優先するのは一瀬くんのことにしよう。
俺自身かなり幼いころから高校生に渡り『異質な存在』を排除しようとさせられた。

あのころ生きているのも苦しくて意味もわからなかった。
でも有村先生のおかげで俺は変われた。感謝してもしつくせない、そのぐらい感謝している。
だから俺には『ばらされて困る』なんてものはない。
まだみんなに秘密していることもあるけれど、少なくとも今年中には言える覚悟を持たなくちゃ。
前のときのようになるその前に。




「やっぱり…。」

「ああ。置いてあるな。撤去するぞ。」

波川と浜口は一瀬に断りを入れて先に教室に戻ってきていた。
その理由と言うのは今の状況の通りだ。
2人が教室を出る前にクラスの人間が一瀬の席になにかをしようと計画を立てていたのを聞いていたと言うか大きな声で言うものだから聞こえてしまったと言うのが正しいだろう。
だけどそのおかげで一瀬が気がつく前に片付けることが出来そうだ。

一瀬の席の元へ近づいてみると酷い状態だ。
どこから持ってきたのか…多分トイレからだろうけれど、花瓶がおいてありその中には花の模造品が置いてあった。
普通の嫌がらせならば菊の花をさすものではあるが今日のことの出来事であるうえ花はそんなに安くないので仕方なくすぐに手に入るしトイレに飾りとして置いてあった奴を一瀬の机の上に。
机の表面を見れば想像以上に落書きをされていた。机の中にもなにかあるのか確認しようと椅子をひいてみれば、椅子にはコンビニで60円ぐらいで買えるアイスをむき出しのまま置いてあった。
時間もすこし経ってしまっているせいからか溶けてしまっている。
このまま座れば尻は大惨事だっただろう。
浜口は心の中で座って机の中を確認しなくてよかったと胸を撫で下ろす。浜口がまずは椅子のアイスを何とかしようと掃除とかをいれるためのロッカーの中から適当に、でも比較的綺麗なほうの雑巾を持って拭いている間に波川は机の上に置いてあった花瓶をとりあえず床に置いて消しゴムで机に書いてある落書きを消していく。

波川が消しているとふとすぐ隣から視線を感じて見てみると叶野が見ていた。
その顔はなにか複雑で、見ようによったら悔やんでいるともとれるし悲しんでいるようにも見えた。
叶野に声をかけようかと波川が悩んでいると馬鹿みたいに大きな声が波川たちを呼んだ。


「よぉよぉ、なにやっちゃてんの?」

「ちょっと〜、せっかくわたしの自信作ができたのに、けしちゃったのぉ?さいあく〜!」

一瀬を最初から気に食わないあのチャラい系…、『かな』こと斉藤やその彼氏的な存在である杉浦とかのいつもつるんでいる奴らが一瀬の机をきれいにしようとしている波川と浜口に絡んできた。

「…このアイス置いたのもお前らか?」

「そうだぜぇ。一瀬にぷれぜんと!よろこぶかなーみーたいなー?」

浜口の問いかけに4人のうちの1人の男が馬鹿丸出しの声で言えば他の奴らは馬鹿だろーとか良いながら下品に笑う。
笑ったのはそいつらだけでなくクラスの人も何人かが笑っている。細山は大柄なその姿を小刻みにして笑っている。
浜口はみんなの反応に不快そうに眉間のしわを深め、波川はみんなの反応が信じられなくて目を見開く。人を傷つけようとする行為をみんなが止めることなくそれを楽しんでやっていることが信じられなかった。
そんな2人の反応を杉浦は鼻で笑い叶野のほうへむきなおった。

「叶野もやろうぜ!お前も一瀬のこと嫌いじゃん!」



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