[通常モード] [URL送信]

透明度。
勇気、なんて。

時刻は朝の8時半。一瀬はまだ寝ていた時間。

叶野は学校に欠伸をかみ殺しつつ登校してきた。連休後の学校は気怠い、そして気が重い。また自分を偽る生活だ。でも、今日は一瀬に少しでも話しかけたい。それだけは楽しみにしてた。
なにを楽しみにする必要があるのかは自分でも疑問に思うけれど、それでも幼いころの遠足の前日のようなわくわくがあった。
もう一瀬はいるのかな、と考えつつ靴を上履きに履き替えて自分の学年の階に向かう。
不思議なことにこの学校は1年生は一番上の階になっていて、1年は3階、2年は2階、3年は1階となっている。
それをいつも面倒くせ、とか思いながら今日も登る。

いつもの朝だった。ちょっと楽しみが増えただけで、変わっていたのはそれだけだった。

階段を上がって少し歩いたところに掲示板がある。自分のクラスからだと遠いのであまり行かない、おもにこの掲示板が使われるのは飲酒や喫煙を禁止するポスターを貼ったり
テストの順位を貼り出したりするときだけ。文化祭のときも一応使われているのだけどまだその時期でもないので見る理由がなかった。
無かったのだけれど、何故か今日は掲示板を見ている人で賑わっていた。
テストの順位はもうすでに撤去されているはずだし、あんなに大人数で騒ぎながら掲示板を見ている光景が不思議に思った。下手するとテストの順位を貼り出されたときよりも人で賑わっているのかもしれない。

なんなのだろうか?
よく見てみると珍しくかなたちもいた。
あまり話はかけたくないけど、この状況を聞くためかなたちの元へと向かった。

「はよ」

「あっのぞみ、おはよう〜!」

「おもしろいもの貼ってるぞ!のぞみも見てみろよ!」

「え?なに??」

掲示板のことに今気付きました、と言った声を上げてついに気になっていた掲示板に目をやる。
かなもケン(かなの彼氏)、ほかのいつもいる二人もなんだか不気味にニヤニヤと口を三日月の形にしているのが気になった。けれどそんな疑問は掲示板を見ることで解消された。
掲示板に書かれていたのは、


「え、なにこれ」

俺が思ったことを誰かが口に出していた。
俺たちより少し離れたところから声がして、そっちの方向を見ると今来たらしい波川が呆然と掲示板を見て呟いていたようだ。
呆然とする波川に浜口が近づいていたのを見えたが、掲示板を見ている人間たちのざわざわとした声のせいでよく聞こえなかった。

「やっぱりあいつってすごくえばってたんだぁ!さいあくぅ!!」

「あの名門校の出身がわざわざこんな公立に来たんだか…」

「いろいろやらかしたんじゃねぇの?あいつ顔が良いし?」

「あの無表情で無口なところはさ、やっぱりおれらを見下してたってことだろ?ゆるせねぇ!


一瀬の野郎!!!」


掲示板に貼り出されていたもの。
一瀬透のことが貼り出されていた。
かなたちの話を聞いてわかる通り良いものではない。
どちらかと言えば悪いもの、にあてはまるだろう。

『名門神崎学園から引っ越してきてこの学校の人間の者を見下している。だからあんなにこちらに関心を示さない、最低な男。1年B組に転校してきた一瀬透はそんな奴だ。』

紙のサイズも手間をかけていることにA3サイズの紙を4枚つなぎ合わせてA1サイズ…大体のゲーム等の発売を知らせるポスターぐらいのサイズで、掲示板をそれでうめつくしていた。
そのせいでみんなそれを見てしまう。しかも白地の紙に赤い、マジックなのかペンキなのかで書かれておりさらに目立っていた。

この張り紙を見てあるものは一瀬の存在を認識しこういう奴なのか、と微かに苛立ちを覚えたり、元々存在を気に入っていなかったものもいて憤る人間。
一瀬の普段の立ち振る舞いを見ているものからすれば、一瀬に対し失望と憤りを覚えるものや本当にそう思われていたのか、と疑問に思いつつも微かに苛立ちに近いものを覚える人間。
それぞれに複雑な思いや単純に感情でものを見る者。まだこのぐらいの年代では客観的に見れる人間は少ない。

結局予鈴が鳴って南野が階段を上り自分の教室に入ろうとしてまだ掲示板の前にいる生徒たちを疑問に思い教室に戻るように促そうとして貼り出されているものに気が付きをそれを破り捨てるまでほとんどの生徒は掲示板の前から離れなかった。


叶野は呆然とした気持ちで破かれる紙をじっと見ていた。
嘘だ、と思っていたのだ。
確かに一瀬のこともショックで、自分はなにもやっていないのにと最初はそう考えた。
信じられない、誰がこんなことをした、する意味があるのかと思いながら紙を見ていたのだ。
そして気がついた。
大分雑に書かれているけれど、でもしっかりと力強い字で跳ねの部分に癖のある字。

見覚えがあった。
この字は、あいつの字。
中学のときに何回も嫌味のように見せられていたあの字だ。

周防暦。あいつの……。
そして梶井の言葉を思い出した。俺は『今回』はなにもしなくとも良いと。
梶井があのあと周防を唆したのか?
あのとき俺が梶井を放っておかずに問い質していればなにか変わったんだろうか。
……そう今、考えたところでなにも変わらないしきっと何回あの場面に戻ったとしても、弱虫の俺はまたこの結果になるってこともどこかでわかってた。
俺はどうすれば、いい?
一瀬に聞けば答えは返ってくるのだろうか。一瀬に近寄れないくせに弱い俺はどこか縋りたいと情けなくそう思った。

それさえもできる勇気なんか、俺にはなかったくせに。






「さぁ〜たのしいたのしいおゆうぎ会のはじまりだよぉ〜!!」

HRの時間、相変わらずサボって屋上で愉快そうにカラカラと笑う。

のぞみんはもう気がついているだろねぇ。
中学になんかいもこよみたんがいやみを言うためにのぞみんにテストを見してゆうれつの差を見せつけてたんだし〜?
あは、どうなるかな?きょうは一瀬はまだ来ていない。こよみんの力作を見せれないことをすこし残念におもうが結局は表情はかわらなかっただろうから
まぁいっか〜
ぶっちゃけあまり期待はできないけどさ〜一瀬以外にも良いおもちゃがあるからこんかいはどちらかと言えばそちらをゆうせんかな〜?
あとまーさをどうしよっかな?あは、たのしみがいっぱいでこまっちゃう!
しかもなにやらハマっこが一瀬に近づいていないと言う情報も入っている。
理由はおもい出がどうたら?
おれにはよくわからないけどさ〜

『思い出したくないもの』ってだれにでもあるわけじゃないんだよね。
きっとハマっこは、真直ぐで。

…俺は…






……あは。おれのシリアス展開なんてだれとく?ってかんじ〜。たのしむのはおれなんだから、自分のことよりもおもちゃのこと優先だよね!
さてと次はなにをしようかな〜!!


もどるすすむ

15/51ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!