帝王院高等学校
一匹のイヌにも五分の魂

この世は雑音が多過ぎる
人間全てが愚かに見える
生きる価値が無いのはどちらだろう



その他不特定多数の一部と
何にも当て嵌まらない個体と




人間は異端児を排他する
愚かな事だ






所詮、人間は皆、独りぼっちなのに
















『私の名は、─────ナイト。』





君だけの騎士になってあげる



















「あー…、やってくれたな…あの人」

死屍累々、とはまた物騒な表現だが、それは正に書いた字の如く倒れ込む男達が重なり出来た山。
その上、不遜な態度で胡坐を掻く男は僅かに乱れた髪を掻き上げ、諦めた様な呆れた様な短い溜め息を零した。



「昼飯時を過ぎた食堂に幾ら飯が残ってっか…」
「く、そ…」
「テメェ、嵯峨崎ぃ…っ」
「殺す…っ」
「煩ぇぞテメーら、一生黙っとけ」

長い足で倒れ込む男達を一蹴した佑壱は鬼かも知れない。
然し右手に握った携帯をパチリと折り畳みながら、緩慢な仕草で立ち上がった佑壱の顔色は見るからに青い。

「援軍なんざ呼びやがって、雑魚が。テメーらが百人束になっても俺一人で撲殺だコラァ」
「うひゃひゃひゃ、弱過ぎ雑魚過ぎ、ヤる気も起きねーっしょ!(∀)」

観客と化していた健吾が腹を抱え、呆れた様な要の嘆息が漏れる。


「とにかく、貴方方が先程見た光景は忘れて下さい。…と言うより、忘れた方が貴方達の為になりますよ?」

無表情、と言うには中性的な美貌を凍らせて脅す要に、帝王院の悪習に染まり切っているらしい不良達が頬を染め、

「喋ったらお仕置きじゃぞ!(^ .^)y-~」

禁煙中らしい健吾がシガレットチョコ片手に笑えば、屍は狼と化した。


「判った。言わねぇから一発ヤらせろケンゴ!」
「俺が先だ!」
「いや、俺が先だ!」
「錦織が相手なら死ぬまで陛下には言わねぇ!」
「俺は別に嵯峨崎でも、」

鼻歌が聞こえた様な気がする。
携帯を握ったまま呆然としている佑壱を余所に、痙き攣る要や鳥肌を浮かばせた健吾の前で、狼は全て野垂れ死んだ。



「BLACK and CHAOS、漆黒と混沌の狭間に還れ。」

珍しく陽気な表情を晒した、然し目だけ死んでいる裕也が長い足を宙に浮かせたまま目を細めている。

「衆道は江戸時代に流行した勝者の道楽だ。害虫にゃ縁がねぇぜ、革命起こしたきゃ尊王攘夷の志を学んで出直してきやがれ」
「うひゃひゃひゃ、さっすが日本史オタクっ、相変わらずアンチ新撰組精神っしょ(∀)」
「壬生狼が嫌いなんじゃねぇ、吉田松陰が好きなんだオレは」

痛めた足で不良達を一蹴したらしい裕也に健吾の拍手が注がれ、要の表情が僅かだけ和らいだ。


「助かりましたユーヤ、もう少しで俺が息の根を止める所でしたからね」
「殺人はマズいぜ」
「いっそ埋めとく?(~Д~) 口封じしたって無意味そーじゃんかよ(≡Å≡)」
「つか、ハヤトに訳話して協力させた方が早いと思うぜ」
「「イヤ」」

裕也の台詞に要と健吾が首を振る。
訝しげな裕也に二人は揃って、



「万一隼人に総長の居所が知れたら、」
「帝王院に総長の安息の場は無いっしょ」
「毎日毎晩毎時間総長の後ろを引っ付いて回った挙句、」
「三日と空かずにご懐妊、なんて俺ぁ絶対許さないから」

至極真剣な表情の二人には悪いが、ホモのABCが全く理解出来ない裕也には未知の話だ。

「幾ら何でも大袈裟過ぎるぜ。総長がどんなに手が早いっつったって、ハヤトにゃ手出さねぇだろ」
「違う違う(@_@)」
「隼人が手を出す方に決まってるでしょう、あの節操無し…」
「俺の愛羅武総長があんな事やこんな事やそんな事までハヤトに…っ!(/Д/)))」
「考え過ぎだぜ」

二人から睨まれた裕也は賢く口を閉ざし、ぱっと見は格好良い事この上ない佑壱の、然し青冷めた横顔に片眉を上げた。

「副長、どうかしたんスか」
「裕也、テメー今すぐ遠野の部屋に行って時間稼いで来い」
「は?」
「要!食堂、テリア、テラス、バー、ラウンジ、帝王院全域から白飯掻き集めて来い!」
「いきなりですか、ユウさん」
「健吾!朝頼んでおいた観葉植物とローチェストがフロントに届いてる筈だ!今すぐ遠野の部屋に届けて片付けとけ!」
「は?└|∵|┘」

ゆらり、と振り返った佑壱の目は最早狼を通り越している。





「総長命令だ。『今すぐご飯6合持って来い』」

カルマが誇る四重奏、三人はピシリと硬直する。
今すぐ、と言う事は5分以内。ご飯6合程度であの食欲魔神が満足するとは到底思えない。


「俺は今から部屋に戻って圧力鍋で飯を炊く!だが保険だ!出来れば、いや出来なくても脅そうが首絞めようが帝王院全域から白飯掻き集めて来い!」
「ラ、ラジャー!」
「裕也、健吾!全力で総長を宥めて来い!テメーら同級だから何とかなんだろ!殺されてもどうにかして来い!」
「わっかりやしたぁ!ε=┏( ・_・)┛」
「…了解」

だーっと素早く居なくなったワンコ達を見送り、一番高い楓の木の幹を蹴った男は枝をひょいひょい駆け上り、





僅か一分で自室のバルコニーに到着。



「…やるか」

しゅばっとタータンチェック模様のエプロンを装着し、バンダナを巻いたら準備万端。
光速で洗った米を使い慣れた圧力鍋に放り込み、人参型キッチンタイマーをセットしたら後は祈るばかりだ。





「今日が本当に新月であります様に…」
















「…」
「…」
「もきゅもきゅもきゅ」


手持ち無沙汰に黒縁6号を弄ぶ太陽、スクリーントーンがぎっしり詰まったカラーボックスを開いたり閉めたりしている桜、のり塩ポテチの悲劇をまだ知らない神威の三人が三者三様に沈黙を守っていた。


見るからに深刻げな雰囲気を発しながら、重箱を前に両手を組んで正座しているオタクは眼鏡の効果が無い。
今にも世界崩壊させそうな不穏なオーラを撒き散らしながら、苛々と爪を噛んでいるのがその証拠だ。



「し、俊。コーラのお代わりは?」
「さ、桜餅もぅ少し持って来ますぅ」

たーっと居なくなった桜に『逃げたな』と舌打ちを噛み殺した太陽は、両手を組んで考えるオタク姿の俊が首だけグルンと振り向いたのにビクッと肩を震わせた。

凄まじい恐怖だ。
佑壱などもう、大津波の前の水溜まりみたいなものだ。


「………コーラはカルピスと一緒に飲むとイイ」
「カ、カルコーク?」

カルコークを知っている平凡の台詞にオタクは沈黙し、またグルンと首だけ元に戻す。
もきゅもきゅ可愛らしい音を発てる逆方向も気になって仕方無いが、今は何より寡黙オタクと化した俊の方が先決だろう。


「何で怒ってんのさ、しゅーん」
「…怒ってない」
「怒ってんじゃん。怒ってんじゃんか!こっち見ない癖に、何だよいきなりっ」
「………」

やはりチラ読みしたBL漫画の台詞では俊は微動だにしなかった。
それが強気受けの台詞とは知らずに口にした太陽の演技力は平凡だ。うまくもなければ下手でもない。

誠に悲しい平凡っぷりだ。



「俊」
「………」
「しゅーん」
「………」
「構ってくれないと浮気しちゃうぞ☆…おぇ」

言ってから吐き気を催した太陽の背中に哀愁が漂っている様な気がしてならない。
気ィ使いしィなA型は、B型に振り回されて胃潰瘍が二つくらい出来てそうだ。



「ハァハァ」



然し吐き気を催したその台詞でオタクの眼鏡がパッションピンクに光った事には気付かない。
このまま太陽を無視していればもっと甘えてくるのではないか、などと下心満載の俊は、ポテチ油塗れの親指を舐める鎧オタクを一瞥し、一気に眼鏡を曇らせた。





「きゃ、きゃーっ!!!!!」
「何事だい俊っ?!」

狼狽する太陽を余所に、しゅばっ立ち上がり神威の腕をむぎゅっと掴み、だーっと廊下を駆け抜け、



『湯』の暖簾が掛かったバスルームのドアノブを引くと同時に鎧オタクを投げ入れる。


「し、俊?!」

後を追い掛けてきた太陽が目を見開き、投げ入れられた神威が何処となく不機嫌げに首を傾げるのを見やった。

「俊、どうした」
「どうしたもこうしたもないにょ!のり塩ポテチには気を付けろと言ったのにっ」

ビシッと指を立てた俊は二葉並みにクルリとターンを決めようとしたが、佑壱が懇切丁寧に磨き上げたフローリングでつるっと足を滑らせる。

「むぎゅ」
「ぅわっ、だ、大丈夫か俊?!」
「ハァハァハァハァハァハァ」

そのまま太陽に抱き付き、うっかりデコチューしてしまったが、これは事故であり決して下心があった訳じゃないと明記しておこう。


だが然し、ナイスフローリング。
後で佑壱にはビーフジャーキー三日分を送っておこう。



「………山田太陽。」

然し、此処に来てまた不穏なオーラを撒き散らすオタク再発。
今度はサイズが違う。太陽より20cm高い所から妖しく光る眼鏡5号。

「カカカカカカイ君?……………あれ、前歯に…」
「バスタオルはどっかその辺にある筈にょ!今すぐお風呂で前歯に付いてるのりちゃんとお別れしてくるにょ!」

じゃなきゃ離婚ですっ!
と言う台詞を最後にバタリとドアを閉め、何事も無かったかの様な仕草でリビングに帰った俊は、直ぐ様デジカメ片手に廊下を戻ろうとして太陽に捕まる。

「…おいおいおい、犯罪やないか〜い。脱衣場を覗き見するつもりならやめなさいねー」
「ちぇ、じゃあタイヨーのおへそ見るにょ」
「何でヘソ…」

ジリジリ近付いてくる変態をしっしっと追い払い、然しやはり狼だらけのカルマを仕切るだけあって挫けないオタクにうっかり押し倒されながら、特大イルカを掴みモフモフそれで変態を殴る。


「ハァハァ」
「何だこの態勢」

跨るオタクと跨られる平凡、イルカ。
間違った哺乳類達は、玄関のドアとバルコニードアが同時に開き、



イルカタックルで吹き飛んだ黒縁眼鏡を横目に、俊はバルコニーを見つめ太陽は玄関まで一直線の廊下を見つめ、沈黙した。



「………何なんだよ、この光景」
「(〇дО)」

人相の悪い男が、平凡高校生のシャツを脱がしている。
硬直した太陽の腕からイルカが落ちた。

観葉植物を抱いている健吾は硬直したまま微動だにしない。


「総長、…っスよね、やっぱ」
「玄関から入って来い、ユーヤ」
「あー、すいません、エレベーター面倒だったんで」
「こ、高野君?」
(〇дО)

サラサラと風化していく健吾に太陽が怯み、裕也が面倒臭いと言わんばかりの表情を浮かべ、ヘソは見られなかったものの腹チラを拝めただけで満足げな俊が立ち上がる。
観葉植物を抱えたまま風になりそうな健吾の両肩を掴み、



「タイヨーをゲットするなら率先して隣に座るにょ。カイちゃんと一騎討ちしてくれるとハァハァしますっ!」
「そうちょ…(@_@)」
「ハァハァ、もう総長攻めなら誰でもイイんじゃないかしら?!いっそケンゴンが総長になっちゃえばイイと思いますっ」

ゴン、と無表情で倒れた裕也が壁で頭を打った。
制服の乱れを直しながら立ち上がった太陽が呆れた息を吐き、


「俺には良く判んないけど、ヤンキーの世界じゃ強い奴が頭になるんだろ?じゃあやっぱイチ先輩しか俊の後任は居ないんじゃない?」
「ふぇ?だって、カルマの中で僕が一番弱かったザマスょ?」

はぁ?
と言う表情を晒した裕也と健吾は、然し次の瞬間座り込んだ。





「正当防衛ならあるけど、喧嘩したコトないもん、僕」


呆れた様な諦めた様な笑みを滲ませ、





「「あーあ。」」


他人扱いされたくないから犬になったのに、
人間扱いもされてなかったなんて


「二人共どうかしたの?」
「…ほっとけ」
「何かもう、改めて気が抜けた…(´Д`)」

ぐて、とへたり込む二人にコーラを勧める太陽は何かに感付いたのか小さく吹き出し、


「俊、喧嘩は仲良しがする事だよー。兄弟喧嘩、夫婦喧嘩に痴話喧嘩ってねー」
「痴話喧嘩したくても彼女が居ませんっ!一人っ子ですっ、めそり」
「カルマは俊の兄弟、…家族みたいなもんじゃないの?」

きょとりと首を傾げた俊を期待の眼差しで見上げる二匹のワンコに、キッチンへグラスを取りに行く太陽の背中が笑いを耐えていた。



「そうにょ、兄弟ならお兄ちゃんの言う事は絶対なり。ユーヤンはそっちのパイロットコス、ケンゴンはあっちのゴスロリコスしなさいっ」
「「は?」」
「い、嫌ならイイにょ。ひっく、一人コスは、ぐす、慣れてるしィ。タイヨーといちゃいちゃしながらコスプレするから、めそ、い〜もん」

しゅばっと立ち上がった二人が躊躇いなく制服を脱いだのは言うまでもないが、










「…何だ、この光景は。」




バスタオルを腰に巻いた銀髪の超絶美形がリビングの戸口に現れると、世界は沈黙で包まれた。

←いやん(*)(#)ばかん→
[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!