帝王院高等学校
こちらカルマでございます。
すたっと見事な着地を見せた彼はサングラスを押し上げながら両腕を開き、口元に笑みを滲ませた。
遠くの喧騒に笑いが止まらない。


「ふっ、騒げ凡人共!痛っ」
「お前が騒ぐな、ボケ」

隣の長身から拳骨一つ、頭を押さえた彼は頬を膨らましピョンとバックステップした。

「酷い。何すんだよ、イチちゃん。総長に向かって下剋上かァ?」
「誰が誰に下剋上だと…?余程殴られたいらしいなぁ、テメー」
「あ、すいませんでしたorz」

その場で素早く正座した、俊…ではなく健吾が痙き攣った笑みを浮かべ、近付いてきた気配に立ち上がる。

「三…四………五人、か(@_@) 早速先発部隊サマサマかね〜(´`)」
「雑魚には違いねぇだろ」

まるで警戒心が無い佑壱は仮面で表情を隠したまま、ただ静かに振り返った。
気怠い仕草で襟足を掻いた佑壱が、戦闘態勢の健吾を庇う様に一歩進み出ると、

「じゃ、おっ始めますか〜(´∀`)」
「精々、カルマの名を辱めんなよ総長殿。」

両腕を広げた健吾が右手人差し指を立て、優雅に振り下ろしたのだ。
それはまるで指揮者の様に、


「演目のご命令を」
「幻想即興曲、月に祈る絶望のプレリュード。指揮者は私、カオスシーザーが務めよう」


何処までも潔く、嗤う。


「居たぞ!」
「カイザーだ!嵯峨崎も居るぞ!」
「一発ヤらせろぉ!嵯峨崎ぃっ」
「陛下に届けたら一生飯食えんぞ!」
「観念しやがれ嵯峨崎ぃっ!」
「うわぁ、流石に恨まれてんね、イチちゃん|||TεT;)」

各々、下心たっぷりき襲い掛かって来た男達に軽く怯んだ健吾が、瞬きする間に彼らは屍と化す。



「…手加減しまくりで、ンな様かよ雑魚が」
「スゲースゲー、やっぱ強いじゃんイチちゃん!(´Д`*)」

左手を握り締めた佑壱の赤いコートが風に舞い、パチパチ拍手する健吾を余所に短い息を吐いた。
右手を使うまでもない雑魚に不満だと言うのではなく、

「誰がイチちゃんだ誰が」
「うへぇ、イチって呼ぶのはちょい勇気が居るっつーかさ(´Д`;)」
「ぱっと見騙せても、中身がお前じゃ隠し通すのは無理だな。総長と落ち合う前にヤられんなよ」
「大丈夫大丈夫、俺ツエーし!ユウさんだって知ってんしょ?(∀)」
「総長に比べたら葉巻とシケモクの差だ。大体、お前はチョロチョロするだけで無駄が多いんだよ」

呆れ声の佑壱にクルンと宙返りした健吾が、サングラスを少しだけズラし舌を出した。

「まっ、見てなって(^-^) 神帝相手は流石に自信ねーけど、もしかしたら神帝こそ激弱ってパターンもあるっしょ(´∀`) 白百合にだけ気を付けてれば、」
「そら、めでてぇ頭だ。残念ながら、神帝は俺の十倍強い。叶の二十倍はイってんじゃねぇか」
「まっさか(οдО;)」
「この俺がンな下らん嘘抜かすか」

見た目カルマ総長の健吾がふらりとよろけ、神帝にだけは絶対見付からないと拳を固める。

「イチちゃんの方が白百合より強いなんて…嘘ん(´Д`*)」
「ブッ殺すぞ」
「あらー、耳が悪くなったのかしら、アタシ(∀)」
「お前の悪い所は頭の中だけだ、総長」
「あらー…、目が悪くなったのかしら、アタシorz」
「だからお前の悪い所は頭の中だけだ、総長。サングラス曇ってんじゃねぇか?」

慌しい足音がまた近付いてくるのに揃って息を吐き、現れた集団の中心にボスレベルの男を見付け乾いた笑いが滲む。

「イチちゃん、設定可笑しいって。いきなりボス戦かよorz」
「全力で逃げる準備しとけ、…総長」
「あのヤる気満々な光王子を何とかしてネ、イチちゃん(@_@;)」
「足手纏いさえなけりゃ、楽勝だがな」

強気な佑壱が臨戦態勢を整え、逃げ腰の健吾がやってくる集団を前に腰へ手を当てた。

「アンタのその理由無い自信がたま〜に、羨ましー(=Д=)」
「自信じゃねぇ、ただの事実だ。俺より強い奴なんざ、…『貴方』しか居ませんよ」
「あー、うん、そら同感っス(´`)」

カルマ総長、つまり俊ならば日向相手に逃げる筈が無いのだから。


「嵯峨崎…!そこ退けや!」
「お早いお着きなこって、公爵殿下。あの野郎はどうせ、高みの見物だろ」
「テメェにゃ用はねぇんだよ!っ、シュン!」

日向の鋭利な眼差しが健吾に注がれ、クールクールと唱えながら大人の男性を演じている健吾が痙き攣る唇に笑みを乗せた。

「俺が判るか?!」
「あ、あはは…、良く存じ上げております」

いきなり俺かよ、と言うビビりっぷりに気付いた佑壱は、仮面の下で完全に呆れている。

「えっと、あー、コンバンハ、光王子、カルマの総長です、本人です、信じて下さいb(´∀`)」
「あのメール、見た!何で居なくなったんだ?!」
「いやぁ、何でって言われても…心の準備が…(~Д~)」

まさかこう言うイレギュラーなパターンがあるとは、と天を見上げたくなりながら、俊の振りをして皆を掻き回す作戦が開始数分で座礁気味なのに肩を落とした。

「ずっと探してたんだ、何で何も言わず居なくなったんだよ!」

メールって何でしょうか総長、そう言う事は打ち合わせの時に教えておいて下さい。

「あんなメールだけじゃ、許してやんねぇからな!」
「…だからどんなメールじゃいorz」

今更言った所で意味はない。


「あー、えっと、…イチちゃん(´∀`;)」
「総長はテメーなんざと話したくないとよ。さっさとうちの馬鹿息子返して貰おうか」

健吾の態度に呆れを通り越して同情した佑壱が健吾を背後に隠し、日向とその周囲に従う数人を睨め付ける。

「何の話だ」
「惚けんじゃねぇ、隼人の居場所だ。どうせテメェらがやったんだろ、フェインの奴隷が」
「死ね、二葉やテメェと一緒にすんじゃねぇぞ。…俺様は誰の命令も聞かん」
「だったら、これ以上テメェに用はねぇ。あばよ」

弾かれた様に走り出した健吾を追い掛けようとする男達を、素早く沈めた佑壱が日向からの攻撃を間一髪避け、持ち前の俊敏さで近くの窓から校舎に入り込む。


「待て、…くそっ、テメェらは奴を追え!俺様がシーザーを追う!」

背後で響いた日向の叫びに軽く舌打ちし口元を覆って、全力疾走のまま迷路の様な廊下を進んだ。


「セントラルライン・オープン、ティアーズキャノン全域の照明を落とせ!」

了解、と言う機械音声と共に校舎内が闇に包まれ、背後で狼狽えた男達の声と足音を聞きながら再び違う窓から外に出る。

「時間稼ぎにもなんねぇな」

直ぐ様、消えた照明が校舎に戻り、校舎内に潜む中央委員会役員の現在地表示を求めた。


『コード:ルークを中央執務室に確認、コード:セカンド並びにコード:ディアブロはセキュリティ発動中。探索出来ません』
「くそ、判ったのはフェインだけかよ…」

自分が中央委員会だと特典もあるが、本来味方である筈の役員が敵に回ればこちらの方が圧倒的に不利だ。
立ち上がり足音を発てずに暫く走り、携帯で健吾にメールを送る。然程待たずに『楽勝逃亡中』の返信があり、何とか日向には捕まって居ない様だと息を吐いた。

「総長との待ち合わせまで、あと30分…か。8時からが正念場だ。健吾が上手くヤんのを祈るだけか…」

目を上げれば、いつの間にか寮が見える所まで辿り着いている。俊は何処に居るのだろうかと手早くメールを送れば、然程待たずして携帯から機械音声が漏れた。

『プライベートライン・オープン、コード:マスタークロノスより通信要請。セキュリティを発動しますか?』
「マスタークロノス?」

隼人に改造させた携帯は、回線送受信やモニタ代わりにもなる。IDカードに埋め込まれたチップ情報もインストールしてある為、佑壱のデコ電は超ハイスペックだった。
リングの内蔵チップは莫大な情報を秘めている為に、携帯では扱えないので回線送受信程度が限界だが。

「繋げろ。但し、位置情報はロックしたまま悟らせんなよ」

ディスプレイに表示された羅針盤の表示に、恐らく俊だろうと目測を付けるが、根性捻くれた二葉ではないとは言い切れない。狡いとは思いながら神威と同等のセキュリティを敷いている今、幾ら日向や二葉だろうが、佑壱の居場所を探す事は出来なかった。

【狡い奥の手】を使えば、日向や二葉のセキュリティを破る事も出来る。
但し当然理事会役員でもある神威には適わない程度だが、その奥の手を使う気にはなれなかった。自分の居場所を隠すだけでも悔しくて堪らないのだから。


『嵯峨崎先輩っ、何処に居るんですかっ?!』

切羽詰まった俊の声音に、まさかこれも二葉の罠だろうかと暫し頭を悩ませながら、背後に要の怒声と太陽の悲鳴、そしてもう一人の声を聞き止めて痙き攣る。

「総長、俺の好きな食いモン、」
『平凡受けにょ!』

合言葉になっていない俊の叫びに軽く目眩を覚えながら、然し下手に答えられるよりずっと明確だと苦笑を噛み殺した。


「要の声がしますね。何かあったんスか?そこに中央の奴らでも?」
『違うにょ!いきなり不良攻めに追い掛けられてるにょ!』
「はぁ?つか、総長今何処に居るんスか?」
『ふぇ、ふぇ、此処何処だっけ?きゃっ、きゃーっ!錦織君錦織君錦織君っ、不良攻めがァ!』
『獅楼っ、猊下から離れなさい!』
『退いてよカナメさんっ、こいつ俺の事ユーさん二号って言ったんだよ!絶対ぇ許さねぇかんな!ユーさんは世界一カッケー、ただ一人なんだからっ!』

頭が痛くなって来たのは気の所為だろうか。良く似た別人では無いらしいが、その声は舎弟のものだ。
それも、自分の親衛隊を仕切る隊長の。


『イチ先輩っイチ先輩っイチ先輩ーっ、コ、コイツどうにかしてー!』
『きゃ、しゅ、俊君っ、俊君ーっ!』
『獅楼ーっ!貴様、即刻ブッ殺す…!』

泣きそうな太陽に乙女な悲鳴を上げる桜、今にも殺人者になりそうな要の声にヨロヨロ立ち上がり、


『ふぇ、ふぇ、怖いよォ、た、たしゅけて、イチィ…』

遂に、元々そう長くはない嵯峨崎佑壱のリミットがMAXを越える。

「加賀城ぉ…」
『はっ、その声はユーさん?ユーさんユーさんユーさ〜んっ、何処に隠れてんですか〜?』
『痛い、いたたた、ほっぺが痛いにょ!めそり』
『うっせ!お前のほっぺなんかストーブの上で焼いてやる!』
『痛いにょ、ふぇ、ほっぺ落ちちゃうなり、ふぇん』

何が起きているのかは全く判らないが、動物レベルの佑壱の耳が遠く離れた寮方向から俊の悲鳴を聞き止め、望遠鏡レベルの佑壱の網膜が廊下の窓の向こうに愛しい愛しい俊の姿をサーチした。
四階だとかそんなものはこの際、無視だ。襲い掛かる加賀城獅楼の魔の手が、眼鏡を曇らせた俊の頬を引っ張っている。

怒り狂った要を涙目で止める太陽の目が、不意にこちらを向いて見開かれた。



「加賀城ぉ…、覚悟は出来てんな、テメー…」
「うぇ」
「ユーさん!」
「イチ先輩…此処、四階…」
「ぅわぁ…」
「何て所から、また…」

頬を赤く腫れさせた俊がゴシゴシ眼鏡を拭い、尻尾を振り回す巨体が喜びを顕にし、太陽と桜が口を丸く開いたまま、要が呆れた眼差しを向けてくる。



さて。
赤いコートを翻した仮面野郎が、四階の窓からスタンと廊下に降り立てば、当然皆の視線を釘付けだ。

仮面を外した男の美貌が凄まじい笑みを浮かべていたとか、目が笑ってなかったとか、右ストレート一発で赤髪の長身を床に沈め踏み潰していたとか、ビトっと張り付いた眼鏡っ子を抱き締め棒キャンディを差し出していたとか言う、しょーもない噂はあんまり広まらなかった。
何せ羨ましそうな要が睨みを利かせていたし、式典でも滅多に見られない佑壱の正装姿に出血多量で運ばれる生徒が多過ぎてそれ所ではなかったし、それに何より、



「あン?加賀城、死んでんじゃん(~Д~)」

四階の窓に両腕を預けたとんでもない男が、サングラスの下で笑っていたから。


「光王子撒いて追い掛けて来ちゃった、イチちゃん(´Д`*)」
「な、」
「何で、」
「きゃ、」
「ふぇ?」
「…アンタ何やってくれてんだコラァ、総長よぉ…」


呆然とした要、太陽、桜、首を傾げる俊を抱き締めた佑壱が、珍しく間抜けな顔を晒したのだ。

←いやん(*)(#)ばかん→
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あきゅろす。
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