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無色ノ噺
二話

おらたちの障子越しの生活が終わって1年半。



「シノ様、今日は外があったけぇですだ。お庭の花も沢山咲いただよ。」

「そうかい。じゃあ、私も見ようかな。」

「はい。」



おらは庭に面している障子を開けて、シノ様を縁側まで連れてきた。



「春…。また、春を迎えられた。」



嬉しそうな横顔に、おらも嬉しくなる。
けど、病は重くなる一方で、日に日に弱っていってるのがわかる。

歯痒い思いに無意識に顔を歪めていると、シノ様が抱きしめてくれた。



「タツ、そんな顔は似合わないよ。貴方は笑っているのが一番似合う。」

「シノ様?」



やせ細っても、シノ様は美しい男の人だ。
これで健康な人だったら、さぞ女の人に人気だろう。
いや、今の状態でも、もしかすると…。



「タツ、私に貴方をくれないか?」

「…え、」

「貴方が欲しい。」



抱きしめている腕に力が篭る。

頭の中でシノ様の言葉を反芻した。



“貴方が欲しい。”



途端に顔が、体が熱くなった。
シノ様と触れているところなんか熱すぎて冷たく感じる。



「し、シノ様!お、おお、おらは男ですだよ!?」

「性別など気にしていないよ。タツだから欲しい。好きなんだ。」

「!!」



これでもかというほど、熱くなってきた。



「お、おらはシノ様とは釣り合わないですだ。右目だって…」

「そう…。私には身分も、外見もどうでもいいよ。それが愛とか恋でしょう?」

「っ!!」



もう、何が何だかわからない。



「私と共にいてくれないか?」

「………はい。」



返事をしたと同時に、唇の端にくちづけをされた。



「!!」

「口だと、病が移ってしまうからね。」



ニコリと微笑むシノ様は、物凄く綺麗で、…かっこよかった。



「…夏みたいですだ。夏みたいに暑い…」



そう言えば、シノ様はクスクス笑って、そっと耳元で言った。



「愛してます。」



夏みたいじゃねぇだ。
夏、だ。



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あきゅろす。
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