幻想ノ噺 クインテット あれから一ヶ月。 自由を奪われた翠藍は、柔らかいベッドに繋がれ、辱めを受け続けた。 心はボロボロで、体もいうことを聞かない。 真綿で喉を締め上げられていく感覚に、翠藍は限界を感じていた。 「海…帰りたい。」 虚ろな目で、テラスを見る。 動けばジャラジャラと音を立てる鎖。 それを無視してテラスの側まで這うが、ひょいっと担がれる。 「逃げちゃダメだよ?ああ、お仕置きして欲しいの?」 「あ…やだ。イイコにするから…。」 「じゃあ、自分でシて?」 翠藍は涙を零す。 「帰して、僕を海に…帰して。帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰して帰してカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテカエシテ!!」 嘆願の叫びは、王子には届かない。 翠藍はもう叫ぶことを止めた。 声を出すことすらも…。 「(アナタニ会イタイヨ…。緋澄(ヒスミ)様。)」 浮かぶのは、かの闇の賢者。 微笑み、怪我を優しく撫でてくれた母以外の人魚。 意識が途切れる寸前、名前を教えてくれた。 そして海に帰ったら共に暮らそうと言ってくれた同じ境遇の人魚。 翠藍は声なき悲鳴をあげて、王子の狂気を受け入れる。 愉悦に歪んだ整った顔は、最早悪魔にしか見えなかった。 「スイ…スイ…あぁ、愛してるよ。愛してる。大好き…大好きだから…俺を求めて……」 翠藍は顔を歪め、首を振る。 もっと酷いことをされるとわかっていながらも、自分を偽ることはしなかった。 ―――――――――――――― 翠藍の体にヒビが入りはじめた。 終わりは間もなくやって来る。 [*前へ][次へ#] [戻る] |