幻想ノ噺
2
悲しい。
なんて、悲しい…。
たとえ悪魔だとしても、元々は愛したかった、愛されたかっただけなんだろう。
その伴侶となる人と…。
「しかし、あんな風になったのはあれの責任。それより、今は貴方です。」
「え?」
急に自分の方に話がきて、キョトンとしてしまう。
「人間といえども、貴方は私の伴侶。しかし、その身は悪魔によって蝕まれている。」
「蝕まれて、る?どういう…?」
「つまり、こういうことです。」
「ひゃっ!って…なに、これ」
シェイにより露になった僕の身体には、真っ黒な蔦が入れ墨のように、下半身を中心に伸びていた。
しかも、その蔦はじりじりとまだ伸びている。
「悪魔は性交の時、気に入った人間の魂を縛り付けるための種を植え付けるんです。そして、更に悪魔の精をかけることにより、発芽を促進し…」
「んう、」
「蔦が伸び、束縛する。」
シェイが触れた所の蔦は、すうっと消えた。
消えたけど、その時に僅かではあるが快感を伴っていた。
「…束縛されたら、後は悪魔の奴隷と同じ。私は貴方を渡したくない。けれど、それには…」
「な、に?」
「……私と、性交してもらわなければなりません。」
「………。」
「それに伴う快感は、自我を失わせるほどとも…。け、けれど貴方を失いたくない!もし、そうなっても私は貴方の側に」
「いい。」
「はい?」
言葉を遮った僕は、カタカタと身体が震えるのも無視して、シェイに抱き着いた。
「いいです。自我がなくなっても…。」
シェイが息を飲んだ。
僕は恥ずかしくてしょうがなかったけれど、シェイが手放したくないと言うなら、側にいたいと思った。
どんな形でも、僕を望むなら幸せになれなかった、あの『片割れ』の分まで…。
「…本当に、いいんですか?」
「………はい。」
「わかりました。」
「でも、絶対になくなりません。僕は…僕も」
―――シェイの側にいたいから。
「だから、なくなりません!」
「………うん。」
シェイの腕が優しく僕を包む。
「うん。類斗…」
力が篭められ、少し息苦しくなった。
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