幻想ノ噺
2
転校生が、やって来た。
真っ黒、闇、…悪魔。
何故か僕の頭の中で警報が鳴り響いていた。
容姿は、艶やかな首の付け根まで伸ばした黒髪、ひどく鋭い美貌、かなりの高身長。
申し分ない美形だった。
「蓮見玲一郎っていうんだ。よろしく。」
「あ、僕は柏木類斗。よろしくね。」
隣の席になった蓮見君は、ニィッと笑う。
ぞっとした。
まるで、獲物でも見つけたかのようだった。
そして、それは正しかった。
学校は元の状態に戻ってしまった。
けれど、見下されるのは僕だけだった。
平凡、平凡、と名前を呼ばれなくなり、少し僕を調べた人たちからは、孤児、孤児、と言われた。
弱っていた僕は、いつも側にいた蓮見君にこぼした。
「…苦しいよ。」
「……なら、忘れてしまえばいい。」
「え?」
「苦しいなら、そいつらの言葉が聞こえなくなるくらい…」
―――俺だけを見ればいい。
その言葉と同時に、蓮見君はニィッと笑って僕を押し倒してきた。
あの時と…転校初日と同じ顔をして。
叫ぼうとした声は奪われ、身体を弄ばれ、…犯された。
泣こうが、喚こうが、助けはなかった。
そんな行為を何度もされた後、蓮見君はまた転校していった。
そして、また転校生が来た。
彼は学校を目茶苦茶にしていった。
彼に惚れた生徒会たちの独裁。
彼に惚れた風紀委員会の職権濫用。
親衛隊の暴走。
そして、既に学校に馴染むことを諦めた僕は、転校生によってスケープゴートにされた。
毎日、振るわれる生徒会や、風紀などの暴力。
親衛隊の八つ当たり。
独裁でフラストレーションが溜まっていた一般生徒のはけ口。
僕はすぐにボロボロになった。
苦しくて、苦しくて、声も上げずに泣いた。
保健室の先生は、毎日来る怪我人の治療で忙しく、頼れなかった。
逃げる場所もなく、僕は全てを受けつづけ、気づけば屋上のフェンスに足をかけていた。
そして、飛び降りた。
浮遊感は一瞬で、あとはただただ重力のまま地面に引き付けられる。
けれど、奇跡が起こった。
天使が、僕を助けてくれたのだ。
まばゆい金髪は長くウェーブしており、優しい顔は美しく、広げた翼は神々しいまでに白く気高かった。
“よく、頑張りましたね…。”
僕は泣きそうになった。
甘く優しい声は、僕をゆっくりと抱く。
暖かい腕の中、僕はその胸板に顔を埋めて、泣いて、泣いて、泣き疲れて、そのまま眠ってしまった。
そして、次に目覚めた時、僕はカノンを聴いた。
天使に翼はなかった。
容姿は相変わらずだけれど、白のワイシャツに黒いズボンという姿だった。
これが、天使との出会いだった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!