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幻想ノ噺
ワンフレーズ

学校の敷地にある教会に、天使がいる。
翼のない、酷く綺麗な天使が。

僕はその天使を見るために、ひっそりと存在する教会へ通う。そして、今日も…。



ポロン…ポロロン……



天使に気づかれないように、教会の出入口からこっそり覗く。
天使は、いつも小さめのハープみたいなのをを弾いている。
とても綺麗な美しい音。
そして、少し悲しくなる優しい音。

僕は、その音に耳を澄ませ、扉を背に座り込んだ。
天使の弾く曲は知らないものばかりだが、今日はカノンだったからわかった。
最初、ここに来た時に聴いた曲で、感動して調べたのだ。

心地良い音色に、心が癒されていく。
教会で共鳴した音が、傷を治してくれる。
全てを諦めてしまいそうな僕を止まらせてくれる。

そっと最後の音の余韻を残し、音が止むと、僕は小さく礼を言って、気づかれないように帰った。



――――――――――――――



僕は学校に馴染めなかった。
いや、学校じゃなく、人に馴染めなかった。
クラスでは、何故か僕だけが平凡な容姿をしていて、周りはこれでもかというほどの美形ばかり…。
平凡、平凡、と心ない言葉を浴びせられ、それでも耐え忍んできた。
だって、この容姿は見たことのない両親からもらった、たった一つ、両親の存在を表すものだから…。

僕には両親がいない。
物心つく前に、事故死してしまった。
ベビーシッターに預けられていた僕だけが残ったのだ。
僕は孤児院に預けられ、そこで生活した。
暖かい環境だった。
小学生にあがる頃、僕は柏木夫妻に引き取られた。
優しい人たちで、引き取られてすぐに自分達の子供が出来ても、冷たくせずにいてくれた。



“この子の良いお兄さんになってね、ルゥ君。”



優しく微笑んだ二人の腕の中にいた七つ違いの可愛い弟を見ながら僕はその言葉に、うん、と頷いた。
今でもその時の事が鮮明に浮かぶ。

そして、僕はここに高校から入学した。
弟の槐(サイカ)に泣きつかれて大変だった。
僕もつられて泣きそうに…というか泣いてしまった。

期待に胸を膨らました分、この学校には落胆した。
女の子のように振る舞う可愛らしい男の子が崇拝している、美形集団とお金持ちの家の子は、ことごく人を見下すことしかしない。
奨学金制度で入った子には、貧乏、貧乏と罵る。
でも、その矛先が僕に向かうとは思わなかった。

いい加減、人を見下してる態度に苛立ち、爆発してしまった。
それは別に良かった。
見下されていた子が嬉しそうにしてくれたから。

それから何故か僕の元に、相談しに来る人が増えた。
中には先生までいた。

保健室の先生に少し場所をお借りして、相談室を設けた。
朝と放課後の時間に開いた。
保健室の先生は、老齢の紳士で良くしてくれた。

暫くは、何事もなく過ぎていった。
見下していた人たちも態度を改め始めているのを見た。
けれど、それは脆くも崩れ去ってしまった。



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