狂気ノ噺
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死ぬのか?
いや、シトの呪縛からは逃れられない。
死なないとはいえ、失った器官が再生することはなく、血が巡らず、意識が薄れていく。
そしたら、またシトが手を入れてきた。
「あひぁっ!?」
「可愛い声。ふふ…心臓、なくなっちゃったね。」
ぽっかり空いた空洞にシトは笑う。
「私が心臓を奪った。心を…」
うっとりとした顔で口づける。
「ニケは私のもの。誰にも渡さない。ニケ…」
――― 一緒になろうか?
「うん。」
シトは、オレから離れると、抜き取った心臓を…
喰らった…。
不思議な光景だ。
生きながら心臓を喰われ、それをオレは見ている。
同時に、シトと一体化している感覚もあった。
「ごちそうさま。あぁ、ニケには心臓の代わりを入れないとね。」
黒い羽根を抜き、シトが息を吹きかけると、心臓と同じくらいの黒い玉になった。
それをぐちゅりと心臓のあった場所に埋め込まれる。
「ひぐっ!」
「中触られて感じてる?安心して。これから余す所なく、触ってあげる。」
嬉しそうな声。
なのに…
「シト、泣かないで…」
涙を流す恋人に、おかしな方向に曲がったままの腕で抱き締めた。
激痛は快感に変わり、苦痛ではない。
けれど、頭が朦朧とする。
「ねぇ、シト…オレら、こうなる前に液体みたいに溶け合えたらよかったね。」
「溶け合う…。」
「だって、そうしたら一つだよ。離れられない。悲しむこともない。」
それでも、オレは二人で良かったよ。
愛し合えたし、話も出来た。
笑い合うことだって…。
涙が止まらない。
シトも、オレも…。
涙は溶け合い、シーツに吸い込まれていく。
「愛してごめんね。出会ってしまってごめんね。それでも、シトが好きで、好きで…たまらないんだっ!」
「愛してる、ニケ。」
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