狂気ノ噺
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四肢の激痛に目が覚めた。
「うっ…」
目を開ければ、薄暗い地下のような部屋。
自分が寝ていたベッドだけがやけに立派で不自然だ。
「ニケ、やっと捕まえた。」
「シト…」
白く輝いていた翼は黒く、青の瞳は紅くなっていた。
雰囲気も、優しく包むものからどす黒く絡み付く妖しいものに変わっている。
だけど…
「ニケ、ニケ、もう逃がさない。もう…」
―――ドコニモイカナイデ…。
本質は全く変わっていない。
その証拠に、紅い瞳から涙が零れている。
「シト、来て…」
呼び寄せると、オレの体を優しく抱きしめる恋人。
ふわりと匂う鉄錆。
それでも、四肢に激痛が走っても、気にならないくらい、久しぶりの温もりに安心する。
「どこにも行かない。もう、逃げない。だから、泣かないで。」
「ニケ、ニケ、にけぇ…」
「…オレ、シトとの約束破っちゃった。」
「?」
逃げなきゃならなかった。
そうしなければ、永久の苦しみを与えることになるから。
シトが、自分の手でオレを殺すという悲劇を演じることになってしまうから…。
「約束、破ったからシトの好きなようにしてよ。」
「いいの?」
「いい。だけど、一つだけお願いしていい?」
「うん。」
そばにいる。
ずっと一緒に…。
昔、シトがオレに言った言葉。
今度はオレからお願いする。
「ずっとそばにいて。」
力の篭められた腕が、了承を表す。
首に雫を感じる。
「…ニケ、ニケ、愛してる。離れないで。どこにも行かないで。私の前から…」
―――消えないで。
背中に回されていた手が、ずぶりと体に入る。
「あ゛ぁぁあぁぁぁぁっ!!」
「ふふ…温かい。」
ぐちゃり、ぐちゃりと背中の肉を掻き回される。
発狂しそうな痛みに、目の前がちかちかする。
「ニケ…にけぇ…ずっとそばにいてくれるんだよね?ずぅっと…」
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