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学園ノ噺
〜寮監side〜

〜寮監side〜



今年の外部生は、本当に豊作だったと聞く。
特待生は少ないけど、文系特待が1人と、芸術特待が1人、体育特待が3人かな。
そして、今、目の前で涙を溜めて鼻を啜りつつ、テレビの動物番組を見る子がそのうちの1人で芸術特待生。

特待生の子だというからどんな子が来るかと思えば、とても普通の子だった。
芸術特待だというから、特別可愛い子か、俳優並みに綺麗な顔しているのか、それとも癖が強い子か、とも思っていたから拍子抜けだ。
染めた事がなさそうな黒い髪は、美容専攻のやつらが見たらモデルをお願いしたがるだろう。

彼らは、いかに美しくさせられるかが重要だからね。
綺麗なものを一層綺麗にしたって面白くもなんともないのだと言っていた記憶がある。

平凡な顔立ち。
人波に入ってしまえば見つけるのは困難だろう。
しかも、この学校は嫌に美形率が高い。
オレだって、外に可愛い彼女がいるくらいにはカッコいいと思うけど、そんなのゴロゴロいるし。



「はー…やばい、泣ける。」

「そんなに?」

「はい。」



ズズッと鼻を啜る枕木君に、ティッシュを渡しすと、ありがとうございます、と言いながらまた鼻を啜る。
いや、かんでほしいんだけどね。
啜っちゃ意味ないからね。

それにしても、普通の子だ。
芸術系の子は、特に美形率が高いんだけどな…。

そう思いながら彼の少し赤くなった目と鼻を見る。



「…どうしました?」

「あ、いや…。芸術特待って言ったけど、何が得意なの?」

「手芸、ですかね。」

「手芸?」

「はい。アクセサリー作りから刺繍、小物作りまでです。ちみちみした作業ですけど、すっごく好きで…。服はさすがに作れませんけど、バックくらいなら作れますよ。」

「へぇ。」

「刺繍とかは、既成の服に施したりもしますね。」



その後、生き生きと語る枕木君の黒い目はきらきらしていて、やばいなぁ…と思った。
オレは勿論、可愛い新しい後輩という認識しかないけど、中にはこの目にやられてしまう、この表情にやられてしまう輩も出るんじゃないだろうか。
それくらい、綺麗で、純粋で、思わず微笑んでしまうくらいには素敵なものを持った子だとわかった。
オレだって、彼女がいるから欲も何も感じないけど、いなかったらわからない。



「そういえば、先輩の名前聞いてなかったですね。」
「え、そうだったけ?オレは、江藤静流。」

「江藤先輩…。うん、覚えましたよ!」

「そっか。ねぇ、今アクセとか持ってないの?見てみたいな。」

「あー…すみません。持ってないです。部屋の段ボールのどこかには、ある筈なんですけど、ね。」

「あー…うん。そうだね。じゃあ、また今度見せてよ。」

「はい!」



目をキラキラさせて、純粋で、本当に自分の中にある『芸術』が大好きなんだという声なき声で、真っ直ぐにその道を見つめる姿は、本当に可愛かった。
また、素直に好感が持てる彼に対して、心配や不安もあり怖かった。

どうか、純粋なままその道を見て立派にここを卒業してほしい。
学校の色に染まっても、それだけは忘れないで、ずっと好きなままでいてほしい。

オレは、初めてこれほど他人の未来を願ったことはないくらいそう思った。

あ…、あと同室者の毒牙にかからないように、と…。



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