大空と錬金術師
査定
その後ツナはしばらく近くにあった本を手に取りパラパラと捲っていた。
(……やっぱり英語だよなあ……)
辛うじて英語で書かれている……とまでは理解できた。だが、何が書かれているのか、何についての本なのか、それはさっぱり分からない。
(……でも言葉は通じるんだよなあ……)
摩訶不思議な現象にツナは頭を悩ませる。
しかし考えても考えても分からない。
ツナはいつしか心地よい陽気に微睡んでいた。
「…………でね……パパが……で………」
「……なの?………でも………」
ふと、アルとニーナの声が聞こえてくる。ぼんやりした頭を上げ、周りを見ると最後に見た記憶より部屋が随分暗くなっていた。
(…………いつの間に寝ちゃってたんだ……)
よく見ると自分の体に毛布がかけられている。それが列車の連絡室で寝ていたときの記憶と被る。
(最近変なところで寝てばっかだ……)
ツナはそう思いながら、頭を掻いた。
ツナは丁寧に掛けられていた毛布を畳むと、アル達の声がする方へ歩いていった。
「あはははは」
資料室の一角で、アルがニーナを肩車していた。アレキサンダーがその足元で楽しそうに尻尾を振っている。
「あ、ツナおはよう」
ツナに気づいたアルがニーナを肩車しながらこちらに歩いてきた。
「おはよう。毛布ありがとう」
ツナがお礼を言うとアルは「どういたしまして」と返す。
何してるの?
ツナはそう聞こうと思い、口を開いた。
「ぎにゃーーーー!!」
しかしその質問は奇妙な叫び声により遮られた。
声のした方に向かうと、そこにはアレキサンダーに潰されたエドがいた。
「アレキサンダー……いつの間に……」
「あ、兄さん」
アルはニーナを肩車したまま近付いていく。
「『あ、兄さん』じゃねーよ!!資料も探さねーで何やってんだ!!」
エドがアレキサンダーの下敷きとなったまま怒鳴り声を上げる。しかしそんなエドに慣れているのか、アルはいつもと変わらない様子だった。
「いやぁ、ニーナが遊んで欲しそうだったから」
「なごむなよ」
そう言ってエドは懸命にアレキサンダーを退かそうとする。
ツナも手伝い、やっとの思いで退かした時には二人ともアレキサンダーの唾液でべとべとだった。
エドは何を気に入られたのか、まだ現在進行形でなめ回されている。
「アレキサンダーもお兄ちゃん達と遊んで欲しいって」
そんな様子を見ていたニーナは嬉しそうに笑っている。
エドはひきつった笑顔を浮かべながらハンカチで顔のヨダレを拭うと、アレキサンダーを見やる。
「ふっ……この俺に遊んで欲しいとはいい度胸だ……獅子はウサギを狩るのも全力を尽くすと言う……」
そこまで言うと、エドはツナの腕をがっしり掴んだ。
「え?」
急なことで驚いたツナは硬直する。エドはそんなツナに構わず目を光らせた。
「このエドワード・エルリックと沢田綱吉が全身全霊で相手してくれるわ犬畜生め!!」
「えええええ!?俺まで!?待って待って実は俺犬そこまで得意じゃな……止まってえええ!」
そんな叫びは全て無視してエドはツナを掴んだまま犬を追いかけていった。
「よぉ大将、迎えに来たぞ……何やってんだ?」
軍服の青年が資料室を覗き、アレキサンダーに潰されたエドを見下ろした。
「いやこれは資料検索の合間の息抜きと言うか!」
がばりと起き上がったエドは直ぐ様反論するが「で、良い資料は見つかったかい?」というタッカーの質問に顔を青くして黙り込む。
エドを囮になんとか逃げ出したツナはアルの隣にいた。
「ツナって犬苦手なの?」
アルがそう尋ねるとツナはちょっと苦笑いする。
「絶対無理って程でもないんだけどさ……ちょっと苦手意識がね……」
ツナはそう言って頬を掻く。
(小さいときチワワに追い掛けられたのがトラウマだなんて言えねー!!)
理由が理由だけに情けなくて言えないツナは笑って誤魔化していた。
「また明日来ると良いよ」
タッカーのその言葉にエドが頷く。それを見たニーナは嬉しそうにはしゃぐ。
「お兄ちゃん達また明日来てくれるの?」
アルは頷いて明日も遊ぶことを約束した。
「さあ、帰ろっか」
アルの言葉に頷いて、ツナとアルはエドと軍人−−−ハボックというらしい−−−の後ろにつく。
ふいにハボックが立ち止まった。
「ああ、タッカーさん。大佐からの伝言が……『もうすぐ査定の日です。お忘れなく』だそうです」
タッカーはマスタングからの伝言に頷いた。
「ねえ、エド。査定って?」
先程のハボックとタッカーの会話を聞いていたツナは車の中でエドに尋ねる。
「ん〜なんつうか……国家錬金術師になると年に一回研究成果を報告しなきゃなんねえんだ。そこで報告し忘れたり、良い評価貰えないと資格剥奪されるんだ」
(つまりテストみたいなものか……国家錬金術師って大変なんだな……)
ツナは自分的な解釈をし、一人納得したように頷いた。
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