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大空と錬金術師
理由

車はやがて大きな家の前で停まった。ツナ達は車を降り、歩いていくマスタングについていく。マスタングは扉の前で止まると呼び鈴を鳴らした。エドやツナはその間家を見上げたり周りを見渡したりしている。

ガサッ

「ぎゃあああああああ!?」


突然エドが叫び声を上げた。ツナとアルが振り向いくと、そこには大きな犬に下敷きになっているエドがいた。

「こら、駄目だよアレキサンダー」

玄関扉の方から男性の声が聞こえてきた。

見ると、資料に載っていた写真の人物と幼い少女が玄関から覗いている。
「わぁお客様いっぱいだねお父さん!」

「ニーナ、駄目だよ犬は繋いでおかなきゃ」



「いや申し訳ない。妻に逃げられてから家の中もこの有り様で……」

タッカーに案内された一同は、机を囲んで座っていた。

(ついてきちゃって難だけど……俺ってここにいて良いの?)

ツナは心の中で呟くが、誰も何も言わないため大人しく流れに任せる事にする。

「改めて初めましてエドワード君。綴命の錬金術師のショウ・タッカーです」

挨拶を済ませると、マスタングがエドを連れてきたわけを話す。

「彼は生体の錬成に興味あってね。是非タッカー氏の研究を拝見したいと」

「ええ、構いませんよ」

しかしタッカーはそう言った後人当たりの良い笑みを消す。

「でもね、人の手の内を見たいと言うなら君の手の内も明かしてもらわないとね。それが錬金術師というものだろう。
何故、生体の錬成に興味を?」

エドはその質問に口を真一文字に結ぶ。

「あ、いや、彼は……」

マスタングがすぐに弁護に回ろうと口を開いたが、エドはマスタングを呼んで遮った。

「タッカーさんの言うことももっともだ」

そう言ってエドは自分の着ていた学ランのような服に手をかける。

タッカーは思わず驚きの声を上げた。
エドの服の下から出てきたのは、自然物ではない……機械の右腕。

「……それで、『鋼の錬金術師』と−−−−」


ツナは席を外そうと、立ち上がった。しかしそれをアルが遮る。

「ツナも聞いていて」

アルは瞳に強い光を込め、ツナを見る。

「え……」

ツナは思わず首を振ろうとした。

聞けない、聞く資格はないと言おうとした。

しかし、アルの目はそれを許さなかった。

「聞いて欲しいんだ」

アルのだめ押しにより、ツナはもう一度席に座った。



「そうか母親を……辛かったね」


エドの口から語られた、兄弟の過去。

母を愛し、母の死を悲しみ、それゆえに犯してしまった過ち。

母の温もりを求め、結果立ち上がる足を、抱きしめる腕を失った兄と……温もりを感じる体そのものを失った弟……

そしてそこまでの犠牲を払って尚、人の形を成さなかった母……



ツナは超直感が感じ取ったもう一つの違和感の正体を理解する。

最初に感じた違和感−−−−それはアルの鎧の中が空である事実−−−−

ツナはアルの鎧に……アルの今の体に手のひらで触れる。

金属の冷たさがツナの手のひらに伝わり、ツナの温もりがアルの体に伝わる。

しかしアルはそれを感じることはできない



気付くとツナは泣いていた。

大きな瞳から大粒の雫が溢れ、零れ、頬を伝わる。

(一番辛い二人が泣いてないのに、俺が泣いちゃダメだ)

そう自分を叱咤するが、涙の粒は次々に溢れて零れていく。


頭に何かが乗った。

見上げると、それはアルの手だった。

「……ご、めん……」

辛うじて謝ると、アルは首を振った。

ツナは涙を止めようと顔をくしゃくしゃにしながら、もう一度謝った。



「彼のこの身体は東部のあの内乱で失ったと上には言ってあるので人体錬成の事については他言無用でお願いしたい」

マスタングの申し出にタッカーは快く頷く。

「ああ良いですよ。軍としてもこれほどの逸材を手放すのは得ではないでしょうから。では……」

そう言って席を立ち、タッカーは廊下に繋がる扉を開いた。

「役に立てるかどうかは分かりませんが私の研究室を見てもらいましょう」


エドとマスタングが立ち上がり、タッカーの後につく。アルは一度ツナを見たが、二人と同様に後を追った。

ツナは少しだけ固まっていたが、自分の袖で乱暴に涙を拭い、急いで四人の後を追い掛けた。


「うわあ……」

エドはタッカーの研究室に入ると思わず声を上げた。その視線の先には沢山の合成獣達が檻に入っている。

「いやお恥ずかしい。巷では合成獣の権威なんて言われてるけど実際のところそんなに上手くはいってないんだ」

タッカーは困ったように頭を掻く。

ツナは合成獣達を見て、少しだけ顔をしかめた。自分達の世界でだって実験動物達は存在するし、彼等によって自分達の医療が発展を遂げていることは理解している。だが、目の前で自由を奪われ研究に使われている動物達を見ると、どうしてもやるせない気持ちになる。

(仕方ない事だってわかってるんだけどな……)

だが分かっていて苦しく感じる事も、優しすぎるツナには仕方ない事だった。


タッカーの研究室を通りすぎ、ツナ達は資料室に辿り着いた。

その中を覗いたエドは感嘆の声を上げた。

「すげー」

膨大な量の研究資料を見上げ、エドは目を丸くする。

「自由に見てて良い。私は研究室の方にいるから」

タッカーのその言葉に甘え、エドとアルは資料を漁り始める。

「私は仕事に戻る。君達には夕方迎えの者を寄越そう」

マスタングの言葉にアルは返事をするが、エドには既に全く聞こえていないらしい。ブツブツと書とにらめっこしている。

「すごい集中力ですね、あの子。もう周りの声が聞こえていない」

「ああ……あの歳で国家錬金術師になるくらいですからね。半端者じゃないですよ」

タッカーの言葉にマスタングは笑って返す。


「いるんですよね、天才ってやつは」


ぼそりと、誰にも聞こえないくらい小さく、タッカーはそう呟いた。





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あきゅろす。
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