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大空と錬金術師
綴命の錬金術師


「今回の件でひとつ貸しができたね、大佐」

テロリストの件についての報告書を提出したエドは、椅子に腰掛けると共にニヤリと笑い、そう言った。

「……君に借りを作るのは気色が悪い」

ひきつったかおで大佐はエドを見る。

一方ツナはアルの隣に座りながら、何故か緊張した面持ちで二人を見ている。

「別に大佐は怖い人じゃないよ」

ツナの緊張に気付いたアルが、笑ってそう言った。その言葉を聞き付けたマスタングも、まるで心外だと言うように肩をすくめる。

「私はそんなに強面かね?」

マスタングの言葉にツナは全力で首を振った。

「すみません!そういうことじゃなくて……そのっ……なんと言うか……」

軍人さんに会うことってほとんど無くて……

ツナは小声になりつつもやっとそれだけ絞り出す。
ツナのその様子にマスタングは苦笑した。

「鋼のもあれくらい子供らしい部分があれば良いんだがな」

からかうようにエドに目線を送るマスタングに、エドは「悪うございましたね」と睨んで返した。

二人のそんな様子にやっと緊張が解けたツナはクスリと笑う。


「それで何が望みだ、鋼の?」

話を本題に戻したマスタングがエドに尋ねる。

「さっすが。話が早いね」

エドは待ってましたとばかりに食い付く。

「この近辺で生体錬成に詳しい図書館か錬金術師を紹介してくれないかな」

「今すぐか?せっかちだな」

マスタングはそう言いながら立ち上がると、本棚の資料を探す。

「俺達は一日も早く元に戻りたいの!」


ツナは生体錬成の意味が分からず、アルに尋ねる。

「生体錬成はね、生物を使った錬金術の事で、主に合成獣〈キメラ〉を作ったり医療に役立てたりするんだよ」

合成獣はゲームなんかでよく見たから何となく想像がつく。

「兄さん、右腕と左足が義肢でしょ?だから元の体に戻るために色々錬金術を勉強してるんだ」

ツナはアルの言葉になるほど、と頷きつつ、心の中では首を振った。

(……アル……なんか嘘ついてる……)

人の動きや心を察知できる超直感が、アルの言葉には少しだけ嘘が含まれていることを訴える。

(それにエドもさっき『俺達』って言ってたし……)

アルも体のどこか悪いのだろうか……
エドの義肢同様、当初から感じていた違和感の事も思い出し、アルを見つめるが、鎧越しでは何もわからない。
超直感も、いつも全てを教えてくれるわけではない。

(……でも聞けないや)

何故エドは右腕と左足を失ったのか、アルは体のどこか悪いのか、気になるが、聞くことはできない。何故なら、自分も二人に隠し事をしているのだから。自分だけ、聞くことはできない。

(なんか……俺ってズルいな……)

未来で、京子やハルに隠し事をして良いことなんて一つもないことを教えて貰ったのに……隠し事が不安を喚ぶことを教えられたのに……また自分は繰り返している。


ツナは人知れずため息を吐いた。


「ああ、これだ」

ツナはマスタングの声に我に返り、顔を上げる。

「『遺伝的に異なる二種以上の生物を代価とする人為的合成』−−−−つまり合成獣錬成の研究者が市内に住んでいる。

『綴命の錬金術師』ショウ・タッカー」


エドが一刻も早く会いに行きたいと主張したため、一同は大佐の車に乗り、詳しく話を聞く。


「二年前人語を使う合成獣の錬成に成功して国家錬金術師の資格をとった人物だ」

エドは大佐の言葉に驚いた声を上げる。

「人語を使うって……人の言葉を喋るの?合成獣が?」

マスタングは頷き、資料に目を落とす。

「そのようだね。私は当時の担当じゃないから実物を見てはいないのだが、人の言うことを理解し、そして喋ったそうだよ

ただ一言、『死にたい』と」

エドとツナは目を見開く。

「その後餌も食べずに死んだそうだ」

マスタングはそこまで言うと資料を閉じる。

「まあ、とにかくどんな人物か会ってみることだね」

それまでの堅苦しい口調から一変し、マスタングはそう言った。





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あきゅろす。
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