雪、溶ける。
雨の赤ん坊、来る!
「来てやってぜ、コラ!」
「!!」
突如またしても、もう何回目なのかすら分からない病院の自動ドアの開閉の音の後、飛んで来た声に驚いて振り向く。
そこには、リボーンとお揃いの水色のおしゃぶりを首にかけ、一羽の大きな取りに頭を掴まれ宙に浮いている赤ん坊がいた。
金髪碧眼。典型的なアメリカ人の容姿イメージを連想させる。
「遅いぞ、コロネロ」
『お久しぶりです』
「!! 久しぶりだなセツ! 元気にしてたのか、コラ!」
『はい、おかげさまで』
コロネロに、ニコニコ満面の笑みで挨拶をする我が妹。
待て、待て待て待て。
この状況について行けてないのって俺だけ?
脳内が新たな人物の登場で混乱しまくっている時、突如一つの記憶の断片が瞼の裏側に浮かび上がって来た。
──────『昔からの幼馴染みを呼んでいただいたとか?』
──────「幼馴染みじゃねぇ、腐れ縁だぞ」
リボーンが昔から知っている人物を、呼んだ。
その人が、お兄さんのカテキョー。
今、現時点でこの条件に一番当てはまるのは……。
「も、もしかして! お兄さんのカテキョーって、コロネロ?!」
「そうだぞ」
「リボーンが、俺に泣きついてきやがったからな、コラ」
「俺は泣いてねぇぞ」
コロネロの発言にリボーンが反発し、それから何故か始まった頭突き合い。
二人の隣では、セツが困った様に二人をなだめていた。
「泣けコラ!」と「誰が泣くか」が続いた結果、「コラ!」と「泣くか」の無限ループだけに省略されてしまっている。何時まで続くんだよこれ。
少しすると、セツがもうどうにも出来ないとでも言いたそうな声を張り上げた。
『もう、いい加減にしてください二人とも! 了平さんに兄さん、困ってるじゃないですか!』
「! すまねぇ…」
「面目ないぜ、コラ…」
「セツ、スゲー……」
セツの怒りの咆哮を直に聞き、一瞬にして黙り込む二人。
近くではお兄さんが良く分からないまま笑顔で居続けていて、そこから少し離れた所には苦笑しているディーノさんが目に入った。
てか俺、リング返しに来ただけなのに何でこんな事になってるんだよ……。
少しの間しんみり(?)していたリボーンとコロネロだったが、暫くすると気を取り直す様にコロネロがコホン、ともったいぶった様な咳を発した。
「…で、こいつが聞いてた晴れの守護者か、コラ」
「あぁ、そうだぞ」
さっきの事なんてまるで無かったかの様に会話を繰り広げる二人。横では、それを監視しているのか見守っているのか分からないセツ。
このとき俺は、案外自分の妹の気迫が凄い事を知った。
……それはさておき。
コロネロはリボーンの肯定を聞き取って、自分のライフルを取り出した。
そして、「ほう…」と呟きながらお兄さんの体の至る所に、ライフルの先を当てて行く。
お兄さんはその様子を、冷や汗を流しながら見ていた。……まぁそりゃそうだよな、銃口当てられてるんだもん。
少しして一通り実力を見定め終えたのか、コロネロはライフルを下ろし、リボーンに向き直った。
その表情は、驚きを表していた。
「…こいつ、本当に守護者で一番弱いのか、コラ」
「あぁ、守護者の中では最弱の部類に入るな」
『え、そうなんですか?』
セツも、不思議そうな顔をしてリボーンに問いかける。その疑問に、リボーンはさらりと「そうだぞ」、と返した。
逆にリボーンも、セツの疑問に疑問を持っているようだった。
「なんだ、気付かなかったのか?」
『いえ……と言う事は、覚醒前でしょうか』
「……そうかもしれないな」
二人の会話はかろうじて聞こえるけど、意味が全く分からない。
なに、覚醒ってどゆこと? あのアニメでも良くある、主人公が新たな力を手に入れるー、的なあれ?
俺の可哀想な頭で考えても、結局結論は出て来なかった。
それどころか、俺が思考を巡らせている間にも話は進んでいて、何か良く分からないけどお兄さんはコロネロの事師匠って呼んでるし、「俺についてこい、コラ!」「おう!」って二人して仲良く病院飛び出してっちゃうし。
俺、今日だけでどんだけ頭使った?
そりゃ当然疲れるよな、俺の脳だもん。
うん、お疲れ様、俺の脳。
明日はきっと休めるさ。多分きっと、うん。諦めるな、俺!
「さて、と……」
俺が自分の脳を誉め称えていると、リボーンが一段落ついたな、とでも言う様に言葉をこぼし、溜め息をついた。
俺も溜め息つきたいよ。でも俺、どう見ても空気じゃない? さっきからなんも喋ってなくない? 心の声ばっかじゃない?
「……おいツナ」
「はぁ……」
ついにこらえきれなくて溜め息が出た。俺ってそんなに影薄いかなぁ……。
そりゃあダメダメだし(「おい、ダメツナ」)顔だってイケて無いし身長だって低いくせに座高はクラス一位だし(「無視してんじゃねぇぞ」)勉強もダメ運動もダメ運もダメダメなダメツナなんだよ(「…おい」)どうせ俺みたいな奴の事なんて誰も気にかけずに誰にも気付かれずに(「いい加減にしやがれ、聞いてんのか」)消えて行くんだよおぉぉ……!!
「テメェの耳はただの飾りか!」
「ぶふぅう?!!」
突如左頬に物凄い激痛が走り、床に倒れ込んだ。
そして目の前には、真っ黒なボルサリーノを被った赤ん坊が。
クソまたこいつか! 俺なんかしたっけ?!
「話聞いてんのかダメツナ」
「はぇ? 話?」
『聞いてなかったんだ…』
不機嫌そうに帽子から覗く漆黒の目をギラつかせながら言うリボーンに、苦く笑いながら俺の右手を取り、立ち上がるのを手伝ってくれるセツ。
やば、自分の精神世界にこもっちゃって全然聞こえてなかった……。
「お前の修行も、開始するぞ」
「えぇええ?!!」
一気に進み過ぎていた話に、俺は思わず叫び声を上げた。
だって、えぇ。さっきお兄さんが出て行ったばかりだよ? 俺ももう行くの?
「さて、と……。俺もそろそろ行くかな」
「えぇ、ディーノさんも?!」
待ってましたと言わんばかりの表情で、ソファに座って話を聞いていたディーノさんが立ち上がった。いや、見てないで助けてくださいよ色々と! 色々と!!
あれ、でもディーノさんどこに……。
「お前の雲は任せろ、ツナ」
「嘘、ディーノさんもカテキョーやるのぉ?!」
驚いた、本当に。
ディーノさん、俺たちと一緒に戦ってくれる物だとばかり……。
もしかして掛け持ちでもするんだろうか。
「すまねぇな、ツナ。俺は同盟の問題でヴァリアーに攻撃出来ねぇんだ。ほら、ヴァリアーはボンゴレの組織だって機能説明したろ」
「そ、そう言えば…!!」
頭の中で昨日の出来事を思い起こしてみた。
確かに、言っていた。
リボーンとディーノさんが、バジルくんとやらの病室で。
俺はしゃがみ込み、膝を抱え込んだ。
「最悪だぁあ……ディーノさんがいるから少しは楽になると思ってたのにぃ…」
「ごめんな、ツナ」
「お前ら、ツベコベ言ってねぇでさっさと修行開始しやがれ」
チャキッ
軽い音を立てて銃弾をセットするリボーンの拳銃。こいつの通常攻撃だ。
いくら打つ事は無いと分かっていても、こいつに銃口を向けられる事に対しての恐怖はその認知を上回っていた。
その所為で毎回知っていても両手を上げて公算のポーズをとってしまう。む、無念……。
『リボーンさん、銃を向けなくても…』
「いいんだぞ雪菜。この馬鹿兄弟弟子はこうでもしねぇと学習しねぇんだ」
『あ、ははは……』
さっきからセツは、苦笑いばかりな気がするな…。
そんな事を思いながらセツの事を見ていると向こうがこちらに気付いて微笑んで来たので顔が熱くなった。うわっ、見てる所見られたな、恥ずかしい……。
『行こう、兄さん? 修行、私も手伝うから』
「え、セツも?」
『うん、出来る事だけだけど』
そう言いながら、未だしゃがみ込んでいた俺に手を伸ばし、ニコリと頬を緩ませた。
『がんばろ?』
「セツ…」
妹の優しさがこの状況の俺に取って、何よりの救いだった。
「……うん!」
セツの手を取って立ち上がる。
立つの手伝ってもらったの、これで今日何回目だろうな。
「ほら、ボサッとしてねぇでさっさと行くぞ」
「ぁだ?! だからいちいち蹴るなよリボーン!」
今度は背中だ。まったく、その内背骨折れたら絶対お前の所為だからな……。
そんな俺たちの様子を、ディーノさんが「困った奴らだな」、とでも言う様に笑いながら見ていた。
まぁ、これも皆を守る為なんだ。
どうにかして強くなって、絶対にあのロン毛達を倒さないと。
絶対に。
絶対に。
(で、特訓って何するんだよ?)
(それは、見てのお楽しみだぞ♪)
(頑張ろうね、兄さん)
(私には、これぐらいしか出来ないからさ……)
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