雪、溶ける。
守護者の使命、来る!
「しゅ、守護者って…?」
『守護者……それはね、兄さん』
頭の中で浮かんだ疑問を呟くと、セツが深刻そうな顔でそれに答えた。
『特に大きな勢力を持つファミリーで使用されている構成システムで、そのファミリーのボスを守るにふさわしい六名が選抜され、リングを渡されるの。その六人の事を、通常『守護者』って呼ぶんだよ。つまり隼人さんと武さんは、兄さんを守る者、守護者に選ばれた』
「俺をまもっ…守護者……?!」
良く分からない単語がツラツラと発せられ、なんだかますますわからなくなった気分だ。え、俺ってそんなにバカ…?
それに、ファミリーってマフィア一個一個の団体の事だよね?
ボスは俺の事だとして、守護者が獄寺くんと山本って、それってさ。
二人を、マフィア沙汰に巻き込むって事…?
「そんなっ、二人を巻き込むなんて…!!」
「いい加減にしやがれ」
「ッ!!」
長年(?)リボーンに蹴られ続けた事によって埋め込まれた反射神経で、俺の体は一瞬ですくんだ。
骸戦の時もそうだったけど、リボーンはたまにとても強い口調で遮ってくる。そして挙げ句の果ては顔面を蹴ってくるのだ。
それが怖くて、一気に黙り込む。
「守護者は、選ばれた者達なんだ。今更どうにも出来やしねぇ。いい加減、腹をくくりやがれ」
「リボーン…」
リボーンはそんな事言うけど、俺はまだ納得が行かなかった。
骸との戦いでも、二人には辛い思いをさせたのに、どうしてまた戦いに巻き込まなくちゃいけないんだ。
嫌だよ、そんなの。友達に、仲間に、傷ついてほしくないんだよ。
『…リングの模様を見た限りでは、武さんは雨、隼人さんは嵐ですね』
「……あぁ、確か似そうだったな」
『……面白い人選ですね』
「ま、待って! 雨って? 嵐って?! どう言う意味?!」
二人で会話を繰り広げていたリボーンとセツに割り込んで、どうしても気になった疑問をぶつけた。
雨と嵐って、別に天気予報でもないんだから……。
「リングは、全部で七つ。雨、嵐、晴れ、雷、雲、霧、そして大空だ。……お、八つだな。今回は例外で、雪もある」
「八つ…雪……?」
『………』
リボーンが言い出した事は、もう本当に天気予報の様な物だった。うわっ、さっき否定したばっかじゃないか…!
それにしても気になるのが、大空と雪だ。
リボーンが言っていたのは、全て天気だった。
大空だけ、天気じゃない。
それに、雪は天気なのにさっき『例外』と言っていた。
これは一体、どう言う意味なんだ…?
「リング保持者達にはそれぞれその天候になぞらえた使命が与えられるんだ」
「使命…?」
リボーンが言うには、初代ボンゴレ。つまり、俺の曾曾曾爺ちゃんは、全てを飲み込み包容する、大空の様な人だったと言う。……正直、良く分からない。
そしてその守護者達は、その大空を彩るあらゆる天候になぞらえたらしい。
まず、雨の守護者。
全てを洗い流す恵みの村雨。戦いを清算し、流れた血を洗い流す鎮魂歌の雨。
次に、嵐の守護者。
荒々しく吹き荒れる疾風。常に攻撃の核となり、休むことのない怒濤の嵐……だっけ。
それと、晴れの守護者。
明るく大空を照らす日輪。ファミリーを襲う逆境を自らの肉体で砕き、明るく照らす日輪。
あと、雷の守護者。
激しい一撃を秘めた雷電。ファミリーへのダメージを一手に引き受け、消し去る避雷針……みたいな感じだった。
えっと、雲の守護者。
何者にもとらわれず我が道をいく浮雲。独自の立場からファミリーを守護する孤高の浮雲、だったと思う。
それに、霧の守護者。
実態のつかめぬ幻影。ファミリーの実態をつかませないまやかしの幻影……多分こんなんだった。
あとえっと、例外らしい雪の守護者。
全ての鍵となる切り札。時に優しくファミリーを包み込み、時に激しく敵を薙ぎ倒す変化の吹雪……かな?
とにかく、こんな感じだった。
……あ、一つ忘れてた。
大空のリング所持者。
全てに染まりつつ、全てを飲み込み包容する大空。
これは短めだったから覚えやすかった。
話を聞く限り、俺はこの大空のリング所持者らしい。なんだか随分な大役に思えるのって、俺だけ?……あ、ボスだからか。
「……どうだ? 少しは守護者について理解したか?」
「あ、うん……じゃなくて! 俺はやっぱり反対だからね、二人を巻き込むの!」
『…まぁまぁ兄さん。二人は選ばれたんだから。それ相応の理由がある筈だよ、ね?』
セツが、苦笑しながら俺をなだめた。ありがとうね、セツ。
だけどやっぱり、納得は行かなかった。
それに、まだ疑問に残る所はたくさんある、と言うか、残らない所の方が少ない。
だけど、どうしても気になる事がひとつだけ、あった。
「…それで、雨と嵐の守護者は分かったけど、他の…えと……五。五人は、誰なんだよ?」
「……心配しなくても、どいつもこいつもお前の知ってる奴ばかりだ。それに、雪の守護者なら、お前のすぐ隣にいるぞ。晴れの守護者は今、こっちに向かってる所だ」
俺の隣を指差した後、上着を脱いで何やら着替え弾めたリボーン。象型の帽子になったレオンを頭に被ってる。
いやいや、何着替えてるんだよ。それに晴れの守護者が向かってるって。ていうか、え? 俺の、隣……?
「まさか」、と思いながら油が切れた機械の様にギシギシした動作で振り向く。
そこにいたのは紛れも無く、間違いなく、セツだった。
目の前の現実が信じられない。
いや、元々ここ数日間起こった事はほとんど受け止められていなかった。
だけど、これは格が違う。
さっき、確かにセツがヒットマンだと言う事を聞いた。
俺の妹なんだし、確かにもうボンゴレの事は知っていた。
だけどまさか、『守護者』だとは思わなかった。
しかも、例外の『雪』だ。
「え、セツが、え? 雪の、守護者……?」
『えへへ……うん、そうなんだ!』
照れた様に後頭部をかきながら言うセツ。
関係ないが、その動作はなんだか俺に似ている気がする。
と言うか、何で嬉しそうなんだろう、セツ。
え、この状況について行けて無いのって俺だけ?
「ぉああぁぁぁ…!!」
頭の中での情報整理が追いつかなくて、奇声が漏れた。
ヤバッ、今絶対変に思われたぞ…!
そう思ってあわててセツの方を見ると、明らかに心配そうな顔をしていた。
『兄さん大丈夫…? さっきから、新しい事ばかりだもんね、疲れたかな…?』
「え?! あ、うんいや、うん! 大丈夫だよビンビンしてるよ?!!」
『?…そう…』
必死に両手を顔の前で振り回して否定する俺に違和感を覚えたのか、小さく眉をひそめるセツ。
だけど、何とか納得してくれたみたいだ。
そして、それは突然だった。
ダダダダダッ!
「パオパオ老師ぃぃ! 俺を鍛え直してくれると言うのは真かぁあ!!」
「お兄さんんん?!!」
『お兄、さん…?』
地響きの様な足音が聞こえて来たかと思うと、すぐに病院の自動ドアが開閉し、お兄さんこと笹川了平先輩が姿を現した。まぁ、そう呼んでるのは俺だけだけど。
なるほど、リボーンが着替えていたのはこの為か。象の帽子を着けている時点で気付くべきだった。
お兄さんが、晴れの守護者なんだ。
「ちょっ、リボーン! なんでよりによってお兄さんなんだよ! 京子ちゃんが心配するだろ?!」
『京子ちゃん……、あ、成る程…』
「何がなるほどなのぉ?!」
リボーンに思い切り文句をぶつけると、隣から納得の声が聞こえて来たので余計に良く分からなくなった。
俺がそちらに気を取られていると、お兄さんがこちらに歩いて来ていた。
「お、沢田ではないか! 沢田もパオパオ老師の特訓に参加するのか? 極限に楽しみだな」
「いやいやそうではなくて! と言うか、お兄さん特訓の理由知ってるんですか?!」
お兄さんが少し的外れな事を聞いて来たので、訂正しながらこちらも質問を返した。
普通、理由も無く特訓なんて……いや、お兄さんならやりかねないかも。
「あぁ、敵を迎え撃つんだってな。極限、全てパオパオ老師から聞いた」
「えぇっ、じゃあ…─────」
─────「命が危険にさらされると言うのに、助っ人に来てくれたのか」。
そう聞こうとしたが、その期待は次のお兄さんの言葉によって一瞬で玉砕した。
「全部忘れたがなッ!!」
たちまち意味ねぇぇえええ!!!
知ってた、うん知ってたよ? お兄さんが極限にまっすぐな性格で、小さい事は気にしない事知ってたよ?
だから、別に落ち込んでないよ? ……嘘です結構へこんでます。
でも、理由も分からず(?)に引き受けて、自分の命を危険にさらしてるんだ。
お兄さんの事だから深くは考えてないかもしれないけど、これって喜ぶべきなのかな…?
一人で頭の中で考えを巡らせていると、お兄さんが隣に立っていたセツに気が付いた。
「…む? 沢田、その隣に立っているのは誰だ?」
「え…? あ、セツか…」
『また隣に立ってる事忘れてたの?』
一人苦笑しているセツ。
そして、獄寺くん達の時同様、セツは自らお兄さんの前に歩み寄った。
次に、ペコリとお辞儀する。
『初めまして、沢田雪菜と申します。いつも、兄がお世話になってます』
「おぉ! 極限、沢田の妹だったか! 俺は極限ライオンパンチニスト、笹川了平だ! よろしくな!」
『はい、よろしくお願いします、了平さん』
両者微笑みながら自己紹介と挨拶を終えた。うん、この二人はちゃんと仲良く出来そうだ……ってそうじゃなかったよね?!
始めはリング争奪戦の話だったのにいつの間にかほのぼのとしちゃってる?! まぁ俺はそれで良いんだけどさ?!
「リ、リボーン! お兄さんを鍛えるって、お前がか?!」
「いや、俺じゃねぇぞ」
『なにも、了平さんの為にパオパオ老師は昔からの幼馴染みを呼んでいただいたとか?』
ニッコリ笑いながら、お兄さんとリボーンを交互に見るセツ。
その表情は、何処か嬉しそうで、楽しそうだった。
セツの言葉を聞いて、お兄さんの顔がパッと明るくなり、リボーンの方は心無しかげんなりとした様に見えた。
「それは真か、パオパオ老師ぃ!」
「幼馴染みじゃねぇ、腐れ縁だぞ」
瞬間、リボーンが首にかけているおしゃぶりが、目映く黄色にか輝き始めた。そう、まるで────────
────────降り注ぐ日差しの様な、暖かい色。
(…来たな)
(な、何…?)
(これは……コロネロさんかな)
(到着だぜ、コラ!)
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