記憶、来る。
『兄さん!!』
そう言って俺に抱きついて来た彼女は、うれし涙を浮かべて俺の胸に顔を埋めてる。
うん可愛いよ、可愛いですとも。
だけど………………
「ににに、兄さん!!?きっ、君は誰なの!?お、俺は、妹なんて────────」
そこまでは言った、言えた。
刹那、頭が刺す様に痛んだ。
「う゛っ…!?」
が、それも一瞬だった。
頭痛が治まりホッとしたのもつかの間…─────────
─────────俺の頭の中に、何処かの映像がドッと流れ込んで来た。
・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・
─────────……………ここって、並森山かな……?
─────────父さんに母さん、それに見覚えのあるおじいさんが山道を一緒に歩いてる………。
─────────その少し前を歩いてるのは……………………俺と、女の子…?
─────────…………………………あっ、この子……………さっき俺に抱きついて、『兄さん』って言った…………。
─────────………!!思い出した……!!!
─────────これ、俺が四歳の時に並森山でやった、ピクニックだ……………。
─────────あの頃は、いつも隣にこの子がいた…………。
─────────名前は………?
『ツっくーん!セツちゃーん!』
─────────セツ…………!!そうだよ、雪菜だ……!!
─────────俺の、大事な大事な、妹……………………。
─────────……なんで今まで、忘れてたんだろう……?
─────────………………………………あれっ、景色が変わった…………空が茜色……夕暮れかな…?
─────────俺たちが、山道を下りてる……………。
『ぁっ!綺麗な蝶蝶!』
─────────あ、ちっさい俺、デカいアゲハ蝶指してる………確かに、綺麗だな……………。
タッ
『!!お兄ちゃんっ、そっち行っちゃ駄目!!』
─────────……!!俺、蝶蝶追いかけてる……!!
─────────それを、雪菜が呼び止めてる……………なのに俺、止まろうとしてない…!!
『お兄ちゃん!!』
─────────この時はまだ、「お兄ちゃん」呼びだったんだな……………ってそうじゃなくて……!!!
─────────駄目だっ、昔の俺…!!そっちに行ったら雪菜と…!!皆と、はぐれちゃう…!!!
ガサガサッ!
─────────!!!!……飛び込んじゃった、草むらに…!!
『お兄ちゃん!!!』
─────────!!!!!…………なのにまだ、追いかけて来てくれてる……………。
─────────どうして…………………どうして、俺なんかの為に…………。
・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・
そこで、ビジョンは切れた。
『兄さん!?どうしたの、大丈夫!!?』
「へ、あっ、へっ!?」
突然の心配により、頭が混乱して間抜けな声が出る。
え、何で心配なんか……?
『え、だって、今頭押さえて苦しそうに………』
「えっ、あ、あぁ!!いや、大丈夫、大丈夫だから!」
どうやら、長い様に見えたビジョンは実はたったの一瞬だったらしい。
その証拠に、俺に取っての数分前だった頭痛も、この子に取ってはたった一瞬前の話っぽい。
それで………………
「………お帰り、セツ!!」
『!!!……ただいまっ!!』
思い切り、微笑んで出迎えの挨拶をした。その方が、きっと喜んでくれるだろう。
予想した通り、雪菜は満面の笑みで、少し涙を浮かべて、返事を返してくれた。
本当の所、まだ完全には思い出していない。
だけど、これから徐々に思い出して行こう。
妹まで、傷つけてしまいたくない。
今日の騒動だって、元はと言えば俺の所為だったんだ。
もう、誰も………誰も、俺の所為で傷ついてほしくなんて無いよ……………。
その後雪菜と夢中で話していた俺は、父さんがいなくなっていた事には、気付かなかった。
・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・
「……おい家光。お前、『雪姫』を連れて来て、どうするつもりだ」
自分の子供達が楽しそうに話しているのを温かく見守ったのち、リビングからそっと立ち去った沢田家光に、リボーンが容赦なく疑問を投げかける。
そして「んあ?」と間の抜けた声を発した直後、ニカッと犬歯をあらわにして笑った。
「そりゃあ決まってんだろ。ツナの雪の守護者にすんだよ、雪菜を」
「!!!…あいつ、雪の波動持ってやがんのか?」
────────だから『雪姫』なのか………。
心の中で雪菜の通り名の由来を納得しながら、家光に驚きと疑問を同時にぶつける。
「俺だってビックリしたさー、自分の娘が、雪の波動持ってるなんてよ。…………初代雪の守護者以来だな」
「あぁ……」
────────こりゃあツナのファミリー……………面白くなりそうだな。
帽子を深くかぶり直し、口元をニヤッとさせたリボーンを、家光は目を細めてみていた。
(にしてもなんで、今までセツの事忘れてたんだろう……?)
(この試練………兄さん、頑張って……)
(こりゃあ、育て甲斐がありそうだな………)
(雪菜、やっぱちょっとムリしてるな…………)
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