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雪、溶ける。
新友(しんゆう)、来る!



「ヒットマンて……ぇ…? 何それ、だってセツは……え…?」


 肯定を得たくて、発言をしたリボーンへ向けていた視線をセツの方へ向けた。
 だけど、その表情を見た瞬間に、思考が完全停止してしまった。


『ごめん、なさっ……ぇくっ…ぇっ…』
「セツ……?」


 さっきから泣き続けていたんだ。
 セツの瞳から溢れ出る雫は、止まる事を知らなかった。

 何でまた、誰かが俺の前で泣いてるんだろう。
 もう、嫌なのに。
 誰かを傷つけるのも、傷つけられるのも。
 どうして、同じ事を繰り返してしまうんだろう。
 もう、嫌なのに。散々なのに。


「ぉ、ぉい雪菜! な、泣くな、な?」
『はっ…ぇっ、ぃ……ぇく…』
「ディーノ、マフィアは女を大切にするもんだって教えた筈だぞ」
「ぅあだ?!! 背中を蹴るなよリボーン!!」


 リボーンに思い切り背中を蹴られ、文句を言っているディーノさんが目に入った。
 だけどそれは、脳に重要な情報としてインプットされない。
 寧ろ今は、セツの方しか目に入らなかった。

 泣き続けているセツ。
 俺に出来る事は、無いのだろうか。

 誰にも傷ついて欲しく無い。
 誰も傷つけたくない。
 ……本当は俺も傷つきたくない、けど誰かを守る為なら。


「……セツ」
『ぇ…?!』


 俺は、泣いているセツの腕を掴み、引き寄せた。
 セツの驚いた顔が目の前に迫る。


「セツはセツだよ! たとえヒットマンでも何でも、セツは世界で立った一人の俺の妹なんだ!! その事実は変わらないんだ!! 嫌ったりする訳ないだろ?!」
『…兄、さん…っ』
「えぇえ?!」


 再び涙で頬を濡らすセツ。
 さすがに困ってしまった。
 俺は女の子の気持ちについて詳しくもないし、女の子がどういう風に考えるのかも知らない。
 これ以上言ったら、セツは今以上に泣いてしまうのではないのだろうか、とだんだん不安になって来た。

 マズい、本当にどうしよう…?!


「あぁあのさっ、セツ! だからほら、ね? 泣かないで?!」
『ぅっ…ん……』


 目をこすりながらかろうじて頷いたのが見えた。
 まだ小さく「ひっく…」と泣いた後特有のしゃっくりみたいな物を繰り返しているセツは何処か可愛らしかった。
 その所為で、この場に似つかわしくない笑いが漏れてしまう。


『ぇ…?! わ、笑うなんて酷い!』
「いや、だって……ふふっ」


 マズい、笑いが止まらない。
 止めないと、セツの機嫌がよりいっそう悪くなってしまうかもしれない。
 そう思っていても、俺の口からは「ふっ、ふふっ…」と言う声がだだ漏れ。
 セツは、頬を膨らませて怒っていた。


『もう……! 兄さんなんて知らない!』
「ご、ごめんて……ははっ…」


 そのむくれ顔を見て、さらに悪化する俺の爆笑事情。
 ヤバい、本当に止まらなくなって来た。

 最初は怒っていたセツも、俺につられたのか次第に笑顔になり、やがては俺と同じ様に『あはははは!』と笑いだした。
 さっきまでしんみりとしていた空気が嘘みたいに明るくなって行く。
 病院のロビーに、俺たち二人の笑い声が響き渡った。


「……バカ兄妹だな」
「それ、俺も思っちまった…」


 横ではリボーンとディーノさんがこんな会話を繰り広げていたが、笑うのに夢中だった俺たちはそれに気付かなかった。
 とにかく、仲直り成功。
 まだまだ思い出せない事ばかりだけど、それはこれから少しずつ思い出して行けばいい。


「……ぃ…ぉぃ……ぉい…おぃ………おい! いつまでも笑い転げてんじゃねぇ、ダメツナが!」
「ぅげえぇ?!!」
『?!! 兄さん?! リボーンさん、ちょっとやり過ぎじゃ…!』
「良いんだぞ。これが俺のやり方だからな」
「は、はあ……」


 顔面左頬に激痛が走ったと思うと、グラリと傾く視界。
 そして聞こえて来た、セツの心配そうな、そしてリボーンの当然の様な声。
 何が俺のやり方だよ、ただのスパルタだよ。

 心の中でぶつぶつ文句を行っていても、それがリボーンに届く筈も無く。


「それで、何しに来たんだ? ツナ」
「ぇ? ディーノさん……──────…あああぁぁぁぁ!!」
「ぅお?! ど、どうしたんだ…?」


 セツの殺し屋騒動ですっかり忘れてしまっていた。
 そうだ、リングだ。
 リングをディーノさんに返しに来たんだ。


「デ、ディーノさん!!」
「ん? なんだ、ツナ」
「こ、このリングなんですけど…!」




 ヴィーン……



 俺がディーノさんにリングを返そうと服の中をごそごそ探し始めた瞬間、小さい機械音をならして再び病院の自動ドアが開いた。
 そして、二つの足音が同時に近づいて来る。


「十代目!」
「よ、ツナ!」
「!! 獄寺くん、山本?! どうしてここに…?!」


 聞き覚えの有る声が聞こえて振り返ると、案の定クラスメイトであり親友の獄寺くんと山本が目に入った。
 昨日、騒ぎに巻き込んでしまった二人でもある。
 二人の頬や腕には、痛々しい絆創膏が張りつめられていた。
 それを目にするだけで、申し訳ない気持ちで胸が一杯になる。
 狙われたのは、俺だったのに………。


「おっさんに、昨日の傷、見てもらおうと思ってな」
「途中で野球馬鹿とばったりあって、同じ目的だったんで仕方なく一緒に来たんすよ…」


 はにかんだ様に頭をかきながら返事をする山本はいつも通り。
 すこし嫌そうに呟く獄寺くんもいつも通り。

 あれ、なんだか、すべてがガラリと変わってしまう様に予感がしてたけど、気のせいだったかな……?


「…? それより十代目」
「? どうしたの、獄寺くん」
「その、さっきから十代目の後ろに立ってる女、誰すか?」
「ん? 後ろ、女…?」


 誰の事かさっぱり分からず、後ろを振り返る。
 すると、苦笑しているセツの顔が視界に入った。


『酷いなぁ、もう私の事忘れちゃったの?』
「ち、違うよセツ! ただあの、なんて言うかそのぉ〜……」






 後ろに立っているなんて知らなかった。




 そう言おうとするが、心の中でそれを繰り返しているうちにただの良い訳に聞こえて来た。
 その所為で、上手く口から言葉が出て来なく、どもりまくってしまう。

 そんな俺を見て、セツはクスリと口に手を当てて笑うと、『冗談だよ』と少し笑いを含んだ声を発した。


「ちょっとセツ〜」
『えっへへ…』


 ちょっとからかって見たかったんだ〜、と再び微笑みながら言うセツは、とても楽しそうだった。
 そして、またしてもどもりながら「ちょっと〜」と言う俺を少しからかった後、『ふぅ…』と溜め息をついて笑うのを止めた。
 セツは、笑いを振り払うかの様にその場で一度深呼吸をしてから、獄寺くん達の前へと躍り出た。


『申し遅れました。昨日イタリアから入国した、沢田雪菜と申します。いつも、兄がお世話になってます』


 そう言って、「己は天使か」とでも言いたくならんばかりの微笑みを見せた。

 ……──────…あ、今二人とも一瞬だけ顔ちょっと赤くなった様な……。


「いえ、滅相も無いです! どちらかと言うといつもこっちが世話になってる方で…! ご、獄寺隼人と言います!」
「俺、山本武ってんだ! よろしくな」


 いつものさわやか笑顔で自己紹介を住ませる山本と、珍しく敬語でどもりながら名乗る獄寺くん。
 二人の自己紹介が終わり、『隼人さんと、武さんですね? よろしくお願いします』と今一度名前を問い直すセツ。
 先ほど聞いた話だが、外国にいた影響か、人の事は苗字ではなく下の名前で呼んだ方が、安心出来るらしい。人違いしない的な意味で。


「十代目に妹がいらっしゃったとは! 獄寺隼人、知りませんでした」
「ツナと雪菜、顔似てるな!」
『一卵性の双子ですから』


 目の前で、知り合った三人が雑談を繰り広げている。
 セツは、新しい友達が出来てか、とても嬉しそうだった。
 兄として、そこは喜ぶべき所だと俺は思う。


「そう言えば十代目! 今朝新聞取ろうとポスト開けたら、こんなもん入ってたんすよ!」
「あ、そういや俺も!」


 突然俺の方に話しかけて来たかと思うと、ボケットの中を同時にあさり始めた二人。
 そしてちょっとしてお目当ての物が見つかったのか、グーの形に閉じた拳をポケットから出す。
 ほら、とでも言う様に、二人はそれを人差し指と親指で自分の顔の横に掲げてみせた。

 それは指輪だった。
 輪っかの部分には銀の装飾がしてあり、その途中で盾の様な形をした物が取り付けてある。
 それは正しく…────────


『!!!』
「んなぁあ?!! どうして二人がそのリングをぉお?!!」


 ──────────昨日ディーノさんが持っていた、リングその物だった。
 俺のとはデザインが若干違う気がするが、間違いない。
 その盾の様な形、絶対的な見覚えがあった。


「やっぱり、十代目も見た事あるんすね!」
「これ持ってるとヤバいんだ、狙われちゃうよ!」


 そう言いながら、首にチェーンを通してかけてある自分のリングも衣服の中から取り出し、二人に見せる。
 チャームの形は違えども、輪の部分の装飾が同じだ。間違いない。


「昨日のあのロン毛が、また襲ってくるんだよ!!」
「!! ……昨日の、ロン毛がっすか」
「あいつ、くんのか…」
「ね?! ヤバいでしょ?!」


 同意を乞う様に、交互に二人を見据える。
 その横で、セツが落ち着いた様子で俺たちを見ていたのが視界に入った。
 だけど、その事を気にしていられる余裕が、その時の俺には無かった。


「……これ、俺んだよな」
「ぇ? あ、うん多分そうだろうけど……」
「……え?」
「見ててください十代目! 今度あいつが来たら、返り討ちにしてやりますよ!」
「俺ら、負けてちゃいらんねぇ性分らしいな!」
「えぇええッ、ちょっ、二人ともぉおお?!!」


 俺の制止の叫びも虚しく、ウィーン、と言う自動ドアの開閉音を最後に、二人はその場をあとにした。
 戦いたくないと同意を得るどころか、逆に二人をなんだかやる気づけてしまった事に、俺は絶望し頭を抱えた。


「よかったなぁツナ。お前の言葉であの二人、やる気出したみたいだぜ」
「そんなつもりは全くなかったのにぃ…!」


 横から俺の方に手を置いて、からかう様に言うディーノさんに半べそで返事を返す。
 本当に無かったのだ、そんなつもりなど。と言うか、本当の目的は全くの逆、真逆だったのに。
 その努力の結果が、これである。
 神様、冷蔵庫に入ってたプリン勝手に食べたの謝るから許してよぉ……。


「そうも言ってらんねぇぞ」


 と、突然耳に届いたリボーンの声に、一瞬闇に沈みかけていた意識が現世をへ送り返される。


「ヴァリアーに偽にリングがわたっちまった以上、もう戦いは避けて通れねぇぞ。火蓋は切って落とされたんだ。…お前も守護者も、鍛えておかねぇといけないぞ」







(守護者……?)
(ヴァリアーは、何時来るのだろう…)
(今度こそ、あのロン毛をぶっ倒してやる…)
(あいつを呼んどいて、正解だったな)
(もうすぐ着くぜ、コラ!)


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