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時代劇ファンタジー
画竜点睛( 台本)=一章=
語り「昔話は、ここでおしまい。しかし、この話には未だ続きがあったのです。時は少し戻り、徳川の納める江戸時代。ある一人の青年…否、物の怪のお話…」

季節は春。

舞台変わって山道。
旅姿の青年が歩いてくる


龍吟「…参ったねぇ。」

辺りからギィギィ、ザワザワといった不気味な声が響く。

青年の名は龍吟。薄蒼く、鱗の様な柄の着物を身にまとい、上には濃い蒼の長い羽織を羽織っている。背には琵琶、帯には艶やかな扇子と竹で出来た横笛を差している。


龍吟「…いやぁ、参った。全く、不便なもんだ。」

声が一段と大きくなる

龍吟「五月蠅い!少しはだまんな!」

ピタリと止まる

龍吟「全く…(歩き出す)」

一段と大きくなって再び大きく声が響く

龍吟「…っはぁ…はいはい分かってるよ、何言ったって無駄だってね!…全く、おちおち野宿すら出来やしないよ。(早足で去ろうとする)」

声に紛れて、何か違う音が。

龍吟「…水の音…?しかも、かなりでかい…何かあんのかね…」

水の音がだんだん強くなる

龍吟「!まさか…水返しか。またどこぞの人間が、罰当たりなことでもしたんかねぇ…」

ピョンピョンと跳ねながら、小鬼達が出てくる

妖怪1「水返し…沼や湖、川の守り神である龍神が行う儀式。」
妖怪2「人間どもに汚され、清さを失った水を流し清める儀式」
妖怪1「人間どもに罰を与えて間違いを正す儀式。」

龍吟「…そうさ。しかしえらい激しく罰してるようだねぇ…直しようがないくらい汚したか、はたまた水路を変えたのかな?」

妖怪3「人間ども、龍神怒らせた、怒らせた」
妖怪4「龍神さま、スゴく怖い」
妖怪1「でも龍神さま、とっても悲しい顔」
龍吟「…そりゃあ、そうだろうさ。本当は龍神だって人を殺したくはない。しかし、これは自然の掟。水返しをしなければここの自然が壊れてしまうだろう?それに、水返しをする事で人間達に自然を汚すとどうなるかを思い知らせねばならない。…最も、この勢いならば、生き残る人間などはいないだろうがね。」

水の音(轟音)が鳴り響く方を見る

龍神「…そうさ、神ほど辛い生き物などいない…」

暗転。

舞台変わって荒れ果てた村。「水返し」の所為で家の破片らしき木材が転がっている。

龍吟「…ここが昨日まで村だった所だね…今となっちゃ、人間が住んでいたとも思えないねぇ…」

女の子がとぼとぼ歩いてくる

女の子「おにぃちゃん」
龍吟「ひぇっ!?」

齢五歳位の女の子が立っている。龍吟、女の子に背を向ける


龍吟「…生き残りか?面倒だねぇ…特に子供だからややこしいんだよ。泣くと五月蠅いし、世話する事になっては堪らないからね。」

気づかないフリをし、さっさと歩きだす。後ろからついてくる足音。足を早める龍吟。

女の子「おにいちゃん!(髪を引っ張る)」
龍吟「いでぇっ!いでででで!」
女の子「あっごめんね。でもお兄ちゃん、気づいてくれないんだもん。」

龍吟、少女に目をやる。

龍吟「何だい、何か用なのかい。」
女の子「おにぃちゃんは、旅の人なの?」
龍吟「…あぁ。」
女の子「やっぱりね、この辺りでは見かけない顔だと思った!」
龍吟「…(怪訝な顔)」
女の子「おにぃちゃんは、何で旅をしているの?」
龍吟「えっ……す、住む場所がないから。」
女の子「ふぅん?」
龍吟「(首を傾げる)…お前は、この辺りの村の者かい?」
女の子「え?うん。…というより、ここが私の村だよ?全部流されちゃったけど…。」
龍吟「(女の子に背を向け、頭を抱える)…じゃあ何故此奴は笑てる…?いや、人間は不幸になると逆に笑うんだったか?てかあたしは何でこの子供と話してなんか…(ブツブツ呟く)」
女の子「(龍吟の背に向かって語りかける)あのね、村が無くなっちゃったから、私には住む場所がないの。おにぃちゃんと一緒なんだ。」
龍吟「(まだブツブツ呟いている)」
女の子「だからね?(髪を引っ張る)」
龍吟「いっ!何…(振り返る)」
女の子「(遮って)私も一緒に、旅に連れてって!」
龍吟「…はい?」

音が鳴り響き、照明が落ちる。


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