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SS置場5
転校生10 L
久しぶりの転校生シリーズ。少し早いですが次のアップだと遅い気がして。











「ローってさ、クリスマスに何か予定ある?」

珍しく若干の躊躇いを見せたキャスケットが口を開いたと思ったら予想外の内容だった
いや、今のとこ何も、と答えると 僅かにほっとしたような様子で話を続ける
「ボニーちゃんがさ、クリスマスにみんなで集まって騒がないかって言ってたんだけど」
「そりゃまた予想外なところからの誘いだな」
いつの間にそんな話をしていたのかと眉を上げる
どうやら先日紹介した 友人の一人であるジュエリー・ボニーとキャスケットはローの思っていた以上に
仲良くなっているらしい

キャスケットの家で顔を合わせた時の第一声はこうだった
「美女だ!うわぁー、思ってた以上に可愛い!」
どうしよう!と騒ぐキャスケットを眺めて苦笑する
『どうしよう』ってどうするつもりなんだ別にジュエリー屋が美女でもどうもしようがねぇだろと思いつつ
二人を引き合わせる。

「ジュエリー・ボニーだ。 ジュエリー屋、こいつがキャスケット」
改めて紹介すると、上気した顔のキャスケットが照れ臭そうな顔で手を差し出す
「はじめまして。1度ローと歩いてるとこを見掛けてて。美女だって噂には聞いてたんですけど、予想以上に可愛い!
わぁ〜、なんか凄い照れるなぁ。キャスケットです、よろしく」
はにかんだ笑顔でそう挨拶したキャスケットは 前の学校で女友達が多かったというのは嘘ではないらしく、
初対面の女の子に面と向かって可愛いという言葉がすんなりと飛び出した
それがギラギラとした様子じゃなく、その上で浮かべた笑顔は人好きするもので、物怖じしないながらも美女に ぽぅっと
頬を赤らめての挨拶をボニーとローはまじまじと観察する
「ふぅん。おまえこそ・・・」 と何か言いかけて言葉を切ったボニーは、敢えて最後まで言うことなく
にかっと笑って「よろしくな!」と手を出した。
「姉御だ・・・」
その手を握りながら何故かキャスケットが感嘆の面持ちで呟いている
どこがツボだったのか一種憧れの眼差しを浮かべたキャスケットの頭をぐりぐりと撫でたボニーは
(こいつ可愛いなぁ。気に入った!)とローにこっそり告げてウインクを寄越したのだった


以来、新しいメニューに挑戦するだとかで時折夕食の席にボニーも顔を出すようになった
もちろん、2人揃ってキッチンに立ち、ああだこうだとジュエリー・ボニーの指導も入りつつの夕食の準備は騒がしかった
凝ったものに挑戦した時などは時間の経つのも忘れて料理に取りかかっているのを、ソファで本を読んだりしながら
完成を待っているうちにキャスケットの母親が帰ってきた事もある
気っぷの良さ以上に美女の部類に入るボニーに驚いた母親だったが、どうやら勝手にローの彼女だと誤解したらしい
確かに、他校の制服に身を包んだ美女とキャスケットが知り合う機会などまだ無いだろうからローの知り合いだという判断は
正しかったのだが。
何度か顔を合わせるうちに分け隔て無いボニーの態度から真実に気付くだろうとは思うが別段都合も悪くないので
そのまま放置している
ボニーとは料理という共通の趣味を通じてメールや電話で連絡を取り合っていたのだろう。
「今年のクリスマスは七面鳥に挑戦するってボニーちゃんが言うんだ。俺も一緒に作らないかって」
ローの返事を聞く前にキャスケットがにこにこ顔で話し始める
「ピザとかパーティーセット買って持ち寄って、ケーキとか手作りしてさ」
「ケーキなんか作れるのか?」
おまえが? と聞いてみると ケーキはボニーちゃんに任せると応じる。どうやら彼は お菓子作り系には興味が無さそうだ
「どうかなぁ。みんな予定埋まってるかな?」
うきうきとした、という様子に近い弾んだ声で、それでも他のメンバーの予定を心配そうにするクラスメイトは
自分は予定の入ってないロンリークリスマスだと白状してしまっているにも関わらず楽しそうだった
「ロー?」
若干、首を傾げるようにして聞いてくる相手を眺めながら
「バイトの入ってる奴もいるかもしれねぇけど、声だけ掛けとけばいい。都合のついた時間だけ顔出しする奴も
いるだろうし、今ならまだ予定の空いてる奴もいるだろ」 と言ってやる
ローは大丈夫だよね?と確認しながらも キャスケットの手は既に携帯でメールを打ち始めていて、
「ん!一斉送信、完了」
キャスケットの声と同時に携帯が鳴る
律儀に既に返事を得ているローにもメールを送ってくれたらしい
「場所はどこだ」
後でいいと携帯を放置して、ローの方は目の前の友人に口頭で尋ねた。
無駄な労力は極力省くに限る
キャスケットは気を悪くする様子もなくさらっと答えた
「ボニーちゃんちに集合だね。戸建てで みんなが集まれる広さは十分あるらしいから」
ロー、ボニーちゃん家の場所、知ってる?
およその地名くらいしか聞いた事がなかったローは知らねぇ、と首を振る
どうやらキャスケットに付き合って今まで訪ねたことのなかったジュエリー・ボニーの家に行くことになりそうだ
「あ。ペンギンとキラーもオッケーだって。」
立て続けに鳴った携帯をチェックしたキャスケットが早い返信に感心しながらメールの内容を読み上げる
「キッドはバイトがあるらしいけど終わってからなら合流できるってキラーが言ってる」
揃いも揃ってクリスマスの予定が空いてるとはとんだメンツだなと言いたいところだが、彼等がその気になれば
すぐにでも予定は埋まるだろう
躍起になってクリスマスデートの相手を探すのは独り身で過ごすのが寒いと感じる人間だけで、普段から相手に
不足していない奴はそれが特別な日だとは意識していないものだ
(まぁ。キャスケットなんかは そういうイベントが好きそうだから本当だったら誰を誘おうかと思案していたかもしれねぇが)

「じゃぁボニーちゃんに連絡取っておくね」 とメールを打つ友人の顔を眺める

こいつにとって "特別な相手"は自分なのだから そういう意味でもキャスケットは楽しいクリスマスを迎えるはずだ
(今のとこ、まだ何も告げちゃいねぇから友人の位置に収まってはいるが)
来年は二人で過ごす事になっているかもしれないな、と楽しそうに予定を立てるキャスケットを見ながら ローにしては珍しく
これから迎えるはずの未来へと思いを飛ばした








クリスマス当日の放課後、言い出しっぺのキャスケットは学校が引けるなりいくつかの食材を買いに走っていた。
前もって親しい友人達と集まってクリスマスパーティをするんだと話していたら、キャスケットは母親から
"うちの事はいいから楽しんでらっしゃい"と言われた
ボニーと一緒に料理の用意をすることになっているキャスケットは他のメンバーよりも早くに彼女の家に行く。
そこで何品かを作る際に少し余分に作って一度自宅に持って帰る予定にしていたのだけれど、当の母親に
外で食べてくるからいいのよと笑って送り出されてしまった
息子に気を遣っているというよりは母自身に本当に予定が入っている様子で、母の職場での付き合いのある人達は
皆家庭持ちの母親だと聞いていたキャスケットは 誰と一緒なんだろうと首を傾げたのだった
初めて挑戦する大掛かりな料理をボニーと2人掛かりで仕上げていく
下味の段階では成功だと思った
焼き上がった鳥にナイフを入れるのは皆が揃ってからの楽しみにしようと、香辛料の効いたソースだけもう一度味わう
「いい・・・んじゃないかな」
「いいに決まってる!絶対みんな旨いって言うぜ!」
男女逆のような台詞を交わしているうちにドアチャイムの鳴る音が聞こえる
七面鳥と平行してボニーが作っていたケーキは既に冷蔵庫で冷やしてあった。
「先に切っちまった方がいいかな・・・」
「せっかく綺麗にデコレートしたんだからケーキも後にしようよ」
「それもそうだな!じゃぁ他を盛りつけしてるからおまえ出てくれるか?今日はあいつらしか来ないはずだから」
りょうかーい、と軽く答えて玄関に向かう
サラダやなんかは作るけど他は各自適当に持ち寄りだと決めていたから、みんな何を用意してくるだろう
(ボニーちゃんがピザ好きなのはみんな知ってるし、全員ピザだったりして)
どうせみんな大食漢だし意外とボニーちゃんも自分達並に食べるから、かぶったとしても余る事はないだろうから安心だけど、
カナッペとかブルスケッタとかは期待できないかもなぁ
そう思って玄関に出たキャスケットは、予想外に大量の荷物を抱えたキラーとペンギンの姿にぽかんと口を開いたのだった


全員申し合わせたようにピザを抱え、後は思い思いに好きな物を買ってきたのだろう
肉まんもあり、刺身もありのテーブルにボニーちゃん秘蔵のお菓子類も飛び出てこの人数には大きいと思ったテーブルは
所狭しと料理が並んでいた
次にやってきたローがチーズの詰め合わせといったしゃれた物も持参していて、最後に遅れてくるらしいキッドは来る前に
電話を掛けてその時点で皆が欲しいものを買ってきてくれる事に決まった
二人して腕に縒りを掛けたローストターキーは好評で、早々になくなりそうで慌ててキッドの分を確保したくらいだ
明日は学校も休みだという事もあってこっそりアルコールも持ち込んでの食事会は楽しく、キャスケットも少しばかり
ラム酒をコーラで割ったものを口にしていた(勿論、通常のラムコークよりコーラの量を多くしてもらった)
母親にはパーティと説明したが 要するにみんなで集まって騒ぐだけのもので、腹も膨れ酒も入ったとくればただのゲームの
勝敗にも盛り上がるだけ盛り上がる
(楽しいなぁ・・・)
遅れてきたくせにすんなり盛り上がるメンツの中に溶け込んで、まだ素面なのに忽ちテンションの追いついたキッドが
大口開けて笑いながらキャスケットと肩を組んできた
体格が見た目から明らかに違うのだから肘を掛けるのに丁度いいのかもしれない
キッドの声に釣られて笑い声を立てていると目の前で飲んでいたローの頭がこちらを向く

視線が合わなかったからローはキッドの方を見ていたのだろう
ふ、と隣で笑う音が聞こえたなと思ったら、「わ?!」 組んでいた肩が引かれたと思ったらそのままぎゅっと抱き締められた
一瞬だけ ローの眉がムッとしたように寄せられる
ゲラゲラと笑いながらぎゅうぎゅうと抱き込むキッドは "どうだ、妬けるか" という事らしい
(だから、そんなんじゃないってのに)
別にふざけて抱き締められるのなんかは構わないけど、力任せの抱擁は少しばかり苦しい
「ちょっと、キッド!苦しいって、放せー」
ぐいと胸を押し返したら思ったよりすんなり腕が解けた
「わりぃわりぃ。あぁ、そうだ。この鳥、旨いぜ? 店で出て来ても遜色ねぇな」 と機嫌の良いキッドにまた肩を組まれる
どうやらバイト上がりにそのままやってきてハイペースで飲んだアルコールでほどよくご機嫌になっているらしい。
普段でさえ "いい兄貴"みたいなおおらかな性格のキッドの目にはキャスケットは弟分にでも見えているのだろう
「いつの間にこんなに腕上げたんだよ。あいつはしょっちゅうお前の弁当喰ってんだろ?今度俺にも作ってこいよ」
向かいで肩を竦めて料理に手を伸ばしているローにまでにこにこと笑顔を大判震い舞しながらキャスケットの耳に
楽しそうに言うキッドは、そんな事を言っているが時々キラーのお手製弁当を恵まれているのを知っている
「今日のはボニーちゃんの手柄だよ。二人掛かりでなんだから。」
そういえばキラーはどうしてるんだと彼の方に目を向けると
そいつは放っておくと肉ばかりで全然野菜を食わないからなとコメントが来たから キラーの弁当は野菜中心なんだろう
確かにキッドが褒めていたのは七面鳥だから キャスケットに肉料理を期待しているのかもしれなかった
「残念ながらうちも野菜を適度に入れたのしか作ってないよ」
「構わねぇ。キラーが作ると本当に野菜しかない時が多いからな」
いつの間にか話の流れでキッドに一度弁当の差し入れをする事になりそうだ
まぁ、良いけど味の保証はしないからと予防線を張りながら視線を戻すと キッドとアイコンタクトで文句を飛ばしあうのに
飽きたのか、ローは隣のペンギンと何か話していた
(ほら、ね。"そんなん"じゃない。)
さっきキッドに絡まれるキャスケットを見て眉を寄せたのすら見間違いかなというくらいの短時間だったしと
息を吐いて新しく注がれていたコップの中身をぐいと煽る
隣ではキッドが弱いくせに無理すんなよと明るく笑っていた
キラーには知られてしまっているけど、別に想いを告げるつもりはないのだ
勘の良いローは何か気付いているようにも思えるけど、彼の方からも何も聞かれていないから 友人という立場に
甘んじて今の状態でいるのもいいかもしれない
(好き・・・だけどさ。俺、男だし。告げても発展しようのない想いなんだから)
こうやってみんなと一緒に騒いで、何でも話せる親友でいるので十分だ。
帰る前に、用意してきたプレゼントを渡して(勿論全員の分がある)それで満足してしまおう
好きになった相手が男だったにしては過ぎるくらい幸せなクリスマスだとキャスケットは思いがけなく楽しく
過ごせた今日を思って柔らかい笑みを浮かべた








「ローまで帰らなくてもよかったのに」
ボニーの家からの帰り道、母親に心配かけないように終電までには帰らなきゃというキャスケットの他は
朝まで騒ぐのか"うちなら構わないから泊まっていけよ"というボニーの言葉に甘えるようだった
あまりローの家庭の話は聞かないけれど、確か放任だと言っていたから今日中に帰る必要は無かったはずだ
それなのに一緒に家を出たのは、多分 一人で先に帰るキャスケットに合わせてくれたのだろう
「あいつらに付き合ってると朝まで寝れねぇからな」
メンバーの中では誰より睡眠時間の短そうなローが言うのがおかしくて自然と頬に笑みが浮かぶ
初めて会った時からローが素直じゃないのは変わらない
それでいて彼の行動は優しいのだから そういうひとつひとつが重なって キャスケットはローに惹かれたのだろう
器用なくせに不器用で、なのに、人一倍態度の大きい変わり者の優等生。
教師や大人の受けを狙わない不遜な言動も ローがすれば魅力の一種に変わるのだからクラスで一目置かれるのも
分からなくはない
それと同時に恐れられてもいたのだけれど、不思議とキャスケットは彼を怖いと思った事はなかった
こんなに親しくなるとも思ってなかったけど、とローの隣を歩きながら空を見上げる

「寒いと思ってたけど、降りそうなのに降らなかったね、雪。」
降ったらクリスマスって感じがするのにとキャスケットは話しながら
自分と同じく出掛けた母は良いクリスマスを過ごせただろうかと考えていた

「少しはクリスマスらしい特別な感じのする事してやろうか」

その言葉を不思議に思って目線を下ろすと キャスケットの贈ったマフラーを首に巻いたローの向こうに
ふわりと白いものが舞うのが見えた

「あ。雪」

思わずもう一度夜空を見上げかけたキャスケットの目の前を、ふ・・・っ、と影がよぎる

"メリークリスマス"
すぐ傍で友人の声が聞こえたなと思ったら その先の言葉はキャスケットの口内へと消えていった








 恋人達が大切な誰かと過ごす特別な日に

メリークリスマス、という応えは貴方の中に吸い込まれた





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