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SS置場4
転校生9 (L視点)
久しぶりに転校生シリーズ。ロー視点。 休みの日に珍しく朝からpc立ち上げました。今日は帰りが何時になるか
分からないので出掛ける前に更新しておくのだ(キリッ














「おまえ今日時間取れねぇ?」
友人のジュエリー・ボニーに今度紹介すると言ったきりになっていたのを思い出して、机の上に広げられた弁当をつつきながら
キャスケットに そう聞いたローは、困ったように眉を下げる友人を見て どうやら都合が悪いらしいと踏んだ
「ごめん。俺しばらく駄目なんだ」
顔の前で手を合わせて "ごめん"のジェスチャーをしながら申し訳なさそうに言うキャスケットは、友人からの誘いを
断るのがあまり好きじゃない。 その彼が『しばらく駄目』と言うのだから何か忙しい訳があるのだろう

だが、待てよ・・・と少し思案する。
普通に考えて時間がないのかと思うところだが、キャスケットの作る弁当はこのところ日増しに手の込んだものに
変わっていて、それから考えても時間がないわけじゃないと思う
(が、俺を避けてるはずは絶対にねぇ)
んじゃ、他に何の理由があるってぇんだ?
ローが無言で考えこんでいたら、沈黙を気にしたのか キャスケットの方から言い訳を始めた
「あ、あのさ。最近、家事に時間を取られてて・・・」
――の割りには この手の込んだおかずの数々は何だ
口には出さなかったがキャスケットはローの考えを読んだらしく、気まずそうに上目遣いに見上げてくる
(おい、別に怒ってねぇからその顔やめろ。)
なんか不味い気がする。そうやって見つめられていると自分でも予想外の行動に出てしまいそうだからソレやめろ。
・・・等と声にするのも却って妙で無言で見返していたら キャスケットは両手を上げて降参のポーズをとった
ちなみに、彼の食べかけの箸は行儀悪くも口につっこんだままだ
「実は、家事っていうか、時間掛かってんのは料理なんだ」
「・・・そら、まぁ、こんだけ作ってりゃそうだろうな」
だがローが知りたいのは何で突然気合いの入ったもんばっか作り始めたのかという理由の方だ
「・・・・・」
困り顔のキャスケットと、何でだというローは暫くそのまま見つめ合っていたが、互いにその状況に気付いて
どちらからともなくふいと視線を外す
でもって なんとなく弁当をつつきながら、結局キャスケットの方が折れた
「今日さぁ、うちに寄る? 色々作るからあんまり相手出来ないけど、良かったら食べてって」
ローなら1人でだっていくらでも時間潰せるでしょと言われて まぁいいけどよ、と肯く
(つまり、学校じゃ話しにくい事なんだな)
「なんか、ローってうちの親にウケが良いんだよね。食べてってくれたら喜ぶかも。」
「へぇ?」
んじゃ、当分ネコ被っとく。
そう言ったら 妙に真面目くさった顔でキャスケットが よろしく、と言うから んあ、とローは目を瞬かせた






「大分手際は良くなったんだけど やっぱり時間掛かるんだよね」
「いや、あんだけ手間の掛かるもん作ってりゃ仕方ねぇだろ」
足りない食材を買いたいというキャスケットに付き合って買い物して戻ったら すぐに作り始めなきゃ、という時間に
なっていたらしい。 適当に冷蔵庫に食材を詰めるローに背を向けてキャスケットは早速下ごしらえに取り掛かっている。
「そもそも、なんで急に凝った料理を作り始めたんだ」
母親が帰ってくるまでに作り終えたいというキャスケットを手伝って、豆をマッシュしながら話を振ってみたら、
うん、と友人の背中が返事する
「ローってさ、兄弟いる?」
突然の飛躍だが それが今の話題に何か関係あるのかと思いながら、居ねぇと答えると、そっかぁとキャスケットの肩が
竦められるのが見えた
「俺さ、今度、妹出来るんだ」
「あ? 妹?」
つぅとコレは妊婦の為の豪華料理か? と首を傾げたローの方へ、手を止めたキャスケットが振り返る
「父親と、新しい奥さんの間に、子供が出来たらしいんだ」
わざわざこいつに知らせてきたのかと眉を寄せる。それを見たキャスケットが苦笑を浮かべて説明を付け足した
「だから、取りあえず俺を引き取りたいという件については保留だって連絡がね。」
「・・・あぁ。」
以前ローと親しくなる切っ掛けとなった出来事が頭を過ぎる
両親が離婚して母親と一緒に行く事になったキャスケットを自分の元へ引き取りたいとごねる父親が 息子を説得しようと
強引に連れて行こうとしたのだった
離婚の原因は父親の浮気にあると考えるキャスケットは その父親をまだ許せずにいる
新しい家庭に子供が出来るのであれば 少なくともキャスケットの父親が彼を煩わせる事はなくなるだろう
「それじゃ、諦めたのか。てめえを引き取るって話は」
父親が"保留"と言った事が気に掛かるローの言葉を 彼にしては表情に乏しい顔でキャスケットが受ける
「さぁ・・・分からないよ。子供は女の子だっていうし、この後も男が生まれなかったらまた言い出す気かも」

勝手だな

ローのその感想に肩を竦めただけで、キャスケットは途中だった下拵えの続きに戻った



つまり、このところのやけに手の込んだ料理は少なからずショックを受けているだろう母親が少しでも
食欲が湧くようなメニューを追求した結果の事らしい
「そりゃあさ、残したりはしないよ? 俺に悪いって思うらしくてさ。でもさ、それだけじゃ 美味しくないだろ?」
見た目だけでも楽しくなってさ、食べてみたらまた美味しくて。次に、明日はどんな料理が出てくるのかなって
思えるようなものを作りたいじゃないか
そう話しながら忙しく手を動かすキャスケットの手伝いは、すでにローでは手を出しかねる段階に進んでいる
確かに、手が掛かっている分 見た目もそれなりに華やかだが、付け焼き刃で始めた料理の腕のキャスケットでは
限度がある。 料理本や何かで知識だけはローも入手できるかもしれないが普段キッチンに立つ事がない故
実戦に伴ったアドバイスやなんかは無理だろう
「今度、ジュエリー屋を呼ぶか」
「え?」
聞き慣れない名前に顔を上げたキャスケットに いいから先に盛りつけろと促して補足していく
「ジュエリー・ボニー。 この前、紹介するっつってたろ。てめえも見た、ピンクの髪の女だ」
あの調理器具を見つけたのもあいつだ。自分で料理もするからそれなりに即戦力になるだろ
「前に海に連れていかなかった事を残念がってたし、おまえを紹介しろって言われてんだ。ホントは今日、時間が
あれば引き合わせてもいいかと考えてたんだが」
「あ!あぁ、そうだったんだ」
ローの説明で得心がいったという感のキャスケットが声を上げた
「キラーやペンギンの口からおまえの名前を聞いてるらしくてな。1度会いたいって言われてる」
「え、えーっ?!」
ちょ、みんな、俺の事どんな風に話してんの!と何故か慌てるキャスケットを向かいに座って眺めていたローは、
"いや、『俺が珍しくつるんでる奴だ』と言われてんだが"と言いかけて、わざわざ言わなくてもいいかと考え直した。

さぁな、とだけ言って、にやにやと眺めていると、キャスケットは勝手に自分で考え始めたらしい

あぁー、もう!絶対、ガキっぽいだとか言われてんだ。ローも止めてくれたっていいのに!とブツブツ言っている
「俺が居ねぇとこで話してんのにどうしろっつーんだよ」
いいけど、時間ないんじゃねぇの? というつっこみに慌てて盛りつけを再開したキャスケットが菜箸を置いたタイミングで
丁度彼の母親の戻ってきた音が玄関から聞こえてきた



キャスケットの言うとおり、ローを見た母親は機嫌の良さそうな様子であれこれと話し掛けてきた
すっかり用意の調った食卓に自分の出番がないわねと笑った後、自分の作ったものじゃないけど最近頓に上達した
息子の料理を食べてくれと勧めて自分も席に着く
苦笑するキャスケットの横で 良いお友達に恵まれて・・・と感謝の意を述べる母親は、息子と同じ髪の色をしており
雰囲気も似通っている。キャスケットの顔の造形は以前見た父親と似ていたが性格等は母親似なんだろう。母親より
キャスケットの方が柔和な感じがするのは 離婚を経た母親が一家の柱として立たねばならなくなったからだろうか。
自立した女性といった芯の強さが感じられ、それが顔つきに出てきているのだろう
(キャスケットを 少しキツイ感じにしたら似た雰囲気になるが。さすが、女は強い)
友人が心配するほど弱くはないぞと思うのだが、そういった内面に気を配るところがキャスケットらしいと目を細める。
彼の母だとて 息子のその気持ちは嬉しいだろうと考えて、しばらくキャスケットの料理三昧に付き合ってやるかと決めた

「あら。それじゃ、女の子がうちに来るのね」
ジュエリー・ボニーの話をちらりとすれば、母親の顔がまた違った輝きを見せる
「前の学校じゃ割と女の子のお友達も多かったのに、こっちに移ってから全然聞かなくて」
「ちょっと、余計なこと言わないでよ」
横から口を挟むキャスケットを手で諫めて母親は構わず話を続けていく
「あれだけ多かったのに、そのうちの誰とも深いおつきあいをしてないんだから、我が息子ながら意気地がないわ」
「意気地とかじゃないんだってば。みんな友達だっただけだよ」
「1人くらい"いいな"って思う子は居なかったの?」
知らないよ、と横を向いてしまった息子をくすくすと笑って眺める母親は どうやらからかって遊んでいるらしい。
まだ子供なのよと言いながらも こういう会話から息子のプライベートをある程度推し量っているのだろう
(こいつが心配するまでもなく、十分元気じゃねぇか。まぁ、キャスケットが居るからこその元気かもしれねぇが)
すっかり楽しく食事を進めていた母親は、最後に1つだけ、それとは気付かずに爆弾を落とした

「ねぇ。 それじゃ、こっちの学校にもまだ好きな子は居ないのかしら」

どきり、と心臓の撥ねる音が聞こえそうなほど キャスケットが表情を強張らせて身を固くする
同じテーブルに着いていればきっと母親も気付いただろう
だが彼にとって幸いな事に、母親は空いた皿を手にキッチンに向かっていて食卓には背を向けていた
一瞬言葉が途切れたキャスケットが 恐る恐るという様子で視線をこちらに向ける
勿論、その話題が出てからローはずっと彼の方を見ていたから、そうする事によって ばっちり2人の視線が絡まった
「・・・いないよ、べつに。」
唇を尖らせて答えたキャスケットが ふい、とローから視線を外す
ほんのりと赤く染まっていく彼の目元はそれが嘘だと告げていて、だけど、ローはその顔を見ていなくても嘘だと知っていた

(いないわけ、ねぇよな)
まだ はっきりと確かめた事はねぇけど。

だけど、ここで自分まで動揺してしまっては場の空気がいっぺんに変わってしまう
女は空気に敏感だ
まだ、告げもしていないまま、外野からとやかく言われたくはない

ちら、とキャスケットがローの方を覗うように見てくる視線を感じるが、今ここで何を言っても彼は動揺するだろう

「まだまだお子ちゃまだからな」
からかうようにそう言ってやれば、むぅーっとキャスケットの唇がますます尖っていく
「どうせ!ガキ扱いされてるよ、おまえらから!」
ぷい、と そっぽを向いてしまった彼の横顔に 少しの安堵と、さらにもっと少しの落胆を見つける
(まぁ、だけど今のこの場じゃ何も行動できるわけねぇだろ)
ローは苦笑を浮かべてむくれるキャスケットの頭を殊更子供扱いするようにぐしゃぐしゃと撫でてやった







 環境の変化がもたらしたもの

互いの自覚を知りつつ、距離を測る泡沫の刻














ふふふ。一番ドキドキする期間ですよね。双方お互いが自覚してるのに気付いてるんだから、楽しいドキドキです^^



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