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SS置場4
バイト8 L

バイトしりーず続き












乗り慣れない車の助手席で "キャスケット" は チラチラと隣を覗う

あの時、『別の日に』 と言ったのは間違いなく自分で、こうやって呼び出されても断る事は出来そうになく、
突然のトラファルガー先輩からの誘いに応じて待ち合わせの場所に来てみれば 彼は車で現れた。
――する事は決まっているのだから、ホテルに直行のはずなのに、どうして車?
そわそわと落ち着かない心持ちでやってきた"キャスケット"が疑問に眉を寄せたところへ、
乗れ、と命令されて助手席に収まった後は どこに向かうのかも告げられないまま車が動き出した



(落ち着かない。)
いつもは軽く回る口も、この状況に緊張しているのかちっとも動いてくれない
煙草を咥えた先輩も言葉を発しないから 自分が何か言わないと車の中で沈黙に押し潰されそうだ
喫煙の習慣のない自分を残念に思ったのはこの時が初めてだ、と思いながら運転席を横目に探る。
待ち合わせに向かう時も落ち着かなかったが、こうして狭い車の中に2人きりという状況はそれに輪を掛けて落ち着かない

「なんか、かけるか。」
適当にそこから選べ、と積まれたCDを指されて とにかく何か行動する事が出来て ホッとしながらCDを手に取る
あまり自分の聞かない名前の並んだCDから適当に選んでセットすると、流れ出した音に漸く車の中の空気が変わって
息をつける余裕が出た

ふぅん、と声がしてそちらを見れば それ、知ってんのかと先輩から質問される
「あっ、や、あの、知ってる曲よりも知らないのを聴いてみようと思って」
会話らしい会話の成り立っていなかった車内での初めての質問に 妙にどぎまぎしながら答える
「あぁ、てめえらしいな」
思ったより穏やかな笑いを含んだ声が聞こえて "キャスケット" は、妙に気恥ずかしくなって目を伏せる
(先輩は、こういうの、慣れてそうだ)
そんな事を考えてしまうのはどうしてだろう
少しばかり親しくなった女の子を助手席に乗せて、緊張に言葉が途切れがちなその子の気持ちを解すような、
優しい声と穏やかな笑み。
(モテるのも納得・・・)
普段、自分をからかってばかりの先輩とは違った顔に戸惑いを覚えるのは当然だった
(いつもの先輩じゃないと調子が狂うんだけど)
だから、こんなに動揺してるんだ、と自分に言い聞かせる
妙に騒ぐ心音を持て余して、"キャスケット"は "先輩"から目を逸らして窓の外を眺めた

先輩が いつもよりも男臭い仕草をするから

だから、落ち着かないんだと誰に向けてか言い訳する
(意識してるわけじゃない、よな。 だって、あんなバイトしてるけど、俺は普通に女の子が好きで・・・)
だけど 普通に彼女が出来たとして、いい雰囲気になった時に平気で押し倒せるだろうか
受け身の自分が、自分を抱く腕が、頭を過ぎったりしないだろうか
そういう一抹の不安はある
(あぁ、でも。・・・そうだ。 好きな子が出来たら、そんなの自然にどうにでもなる)
思い浮かんだ結論に、ふっ・・・と安心したように微笑んだキャスケットの隣で、その顔を目を細めて笑う先輩には
気付かないふりをした

(だって、そんなんじゃないし)





「あの・・・どこへ向かってるんですか」
車内の空気に少しだけ慣れてきたキャスケットがようやくそう聞いたのは車が走り出してから30分は過ぎた頃だろうか
今頃かよ、と喉の奥で笑った先輩が呟くのが聞こえて だってなんか緊張して聞けなかったんだと胸中で口を尖らせる
「飯喰いに行こうぜ。おまえ好き嫌い無かったよな?」
確認の形を取ってはいるが 食べられないものはないと知っている口振りで話す先輩の操る車は、海沿いの道を
軽やかに飛ばしていて、慣れた運転の腕前は普段から遠出してでもいるのかなとキャスケットは考えを飛ばす
「風が気持ちよさそうですね、少し 窓開けてもいいですか」
食事に行くと言われて俄に気負いの取れた事で他へ気が回りだした
・・・と、言っても、食事の間の数時間 先延ばしになっただけなのだけれど。
「海風だぜ。潮の香りでも気になるか?」
答えるローは キャスケットが動く前に手元で操作したらしい。音もなく窓が開いて、言葉通り 潮風が髪を擽っていく
「海水浴の匂い!」
自然と漏れた笑みをそのまま窓の外へと向けて、結構ボディボードの人が居ますね、俺、今年は海水浴行ってないんですよと
楽しそうに眺めていると、
「寄り道してくか」
そう言った先輩の手がハンドルをきっていて
「え、」
キャスケットが返事をする前に 車は海の方へと進路を変えていた


「足浸けるくらいしてくれば? 少しは海水浴気分になんじゃねぇの」
そういう先輩の方は別段海に興味がなさそうなのに、自分の一言でこんなところに来てしまった
パーキングに車を停めた先輩が先に降りて行ってしまうからキャスケットは戸惑っている暇なんかなくて 慌てて後を追ったら
浜に着いてしまったのだ
なんだか、食事の約束をした女の子がデートの最中に やっぱり海に行きたいとわがままを言ったような展開に"いや、俺が
遠慮する隙も無かったんだって!"と言い訳を考えながらぶるぶると首を振る
(デートって何だよ。単に、飯喰いに行く途中で通りかかった海の傍で車停めただけじゃん)
別に、野郎ばかりで海に来るのだってよくある事じゃないか
この後、先輩と ご飯を食べに行って、その後で抱かれるんだという事が頭にあるから、変にデートみたいに思えてしまっただけで。
それさえ省けば同じ学校の先輩後輩が連れだって海に来てもおかしくないとキャスケットは客観的になろうと努力する
「今年初海だってのも、週末がバイトで潰れたからだし・・・」
思わず考え事が口に出ていたらしい
「泳ぎたきゃ止めねぇよ。今なら服脱ぎゃ平気だろ」
返ってきた応えに一瞬目を瞬かせた後、キャスケットは ボンッ!と顔色を真っ赤に変える
("今"じゃなかったら、人前で服が脱げなくなるって事?!)
あわあわと赤くなる頬を手で隠すキャスケットを、眉を上げた先輩が苦笑して こつんと頭に手を当てる
そんな仕草も "デートの相手"のように思えて動揺を激しくしていたキャスケットの耳にいつもの先輩の声が届いた
「今っつーのは"8月の初め"の時期の事だ。変に気を回さず海を楽しんでこい」
くるりと向きを変えられ、肩を押し出されてキャスケットは慌てて浜の方へ駆けだした
砂浜は走りにくかったけど、そんな事を気にしてる余裕はない
(お、俺っ、意識し過ぎっ!自意識カジョー?!・・・恥ずかしい!)
背を向けたお陰で先輩に顔を見られなくて済む
まっすぐに前に向かって走り続けるうちに いつの間にか海に到着して、息を弾ませたキャスケットは それだけ離れて
ようやく後ろを振り返る事が出来た
先輩は いつの間に買ったのか缶ジュースを片手に日陰を目指してか のんびりと歩いている
(ヤバいよ、俺、今夜先輩と寝るんだって事が頭から離れない)
この後の食事も味わう事が出来そうにないと眉尻を下げたキャスケットの目に 立ち止まって自分の方へ目を向ける先輩の姿が写る
(視線・・・だけでも、恥ずかしい、かもっ)
うわあああ、と感じる羞恥を誤魔化すように、ぽいぽいと靴を脱ぎ捨てたキャスケットは ばしゃばしゃと飛沫を上げて海を駆け抜けた









「あ・・・れっ?」
思わず出た声はキャスケットの心情をそのまま表していて、入った部屋の中をきょろきょろと見回していると
「何だよ、ラブホだとでも思ったのか?」と笑う声がしてキャスケットは 「あ、ぅ・・・」と不明瞭な音を出した
確かに、入ってくる時にラブホテルらしくない外観だと思った
なんだか普通の小綺麗な海辺のホテルに見えるなぁと思っていたら、やっぱりここはそういった用途のホテルではないらしい
ラブホテルなぞ利用した事のないキャスケットには、受付にある室内を写したパネルから部屋を選ぶものだとかいう余計な知識は
無かったから そこがラブホテルとは一線を画したホテルだと気付くのが遅れたのだ
「それとも、おまえ 男同士でそういうホテルに入る度胸あるか」
言われて 顔を赤くして俯く
いつもならからかいの言葉が飛んできそうなものだが、ローは何も言わずに先を立って室内へと入って行った

どうやら 随分と自分は気遣われているらしいと気付く。
先輩なら別にそんな事が気にならないような場所も知っていそうだし、自分と違って気にもしないような気がする
ここに来る前に寄ったレストランも・・・そう。『飯を喰いに行く』というような居酒屋や定食屋のような所じゃなくて、
あれは レストランと呼ぶような店に連れて行かれた
(うぇ、手持ちのお金で足りる?!)と心配になるような店だったが、初めに奢りだと言われて それはそれで
こんな店で奢って貰っていいのかと躊躇っているうちに店内へと引っ張り込まれてしまったのだ
・・・有無を言わせない強引なところはいつもと変わらない。
なのに、やっぱりロー先輩はいつもと違う感じがする

「飲むだろ?」
先輩が手にしているのはお酒の入ったグラスで、さっきの店でもワインを口にしていたのに、一向に酔えなかったキャスケットは
それに甘えてグラスを受け取った
多分、緊張しすぎていて、酔いも回らないんだと思う
それが分かっているのか酒を勧めてくる先輩は楽しそうで、バイト先での彼ともまた違った顔をしている
(そっか。バイト先での"先輩"。あれはあれで、見せる為の演技が入ってるんだ)
こうして、観客の目のないホテルで向かい合って初めてその事実に気が付いた
学校での口の立つ先輩ともまた違うその顔は、ローの本当のプライベートでの顔なのかもしれない
――ホントの先輩って、どんな人なんだろう
よく知っているようでいて 本当は自分は彼の顔の半分ほどしか知らないのかもしれない
(あ。でも、今日ちょっとだけ知ったんだ)
待ち合わせて、ドライブして、海辺で遊んでレストランで食事して。
きっと、先輩が女の子を口説く時は こんな風にスマートに行動するんだ
(もしかしたら、先輩ならラブホテルなんて使わないのかもしれない)
そんな事を考えていたキャスケットの視界を すっと影が横切って、気付けば、いつの間にかすぐ傍に来ていた先輩と唇を合わせていた




「まだ緊張が抜けねぇ?」
喰ってた料理の味も分かってなかったろ、というローの言葉が自分の平坦な胸の上から聞こえる
こんな事、誰かと 肌を合わせる事なんて、何度も経験しているはずなのに緊張する体から力が抜けない
んん、と鼻に掛かった声が喉から漏れる
話していたローがキャスケットの返事を待たずに目の前の小さく尖って健気に存在を主張する飾りを口に含んだからだ
バイトに通うようになってから、すっかり性感帯の一つに変わってしまったそこを 先輩の舌がつつき、転がしていく
「ん、くぅ、・・・ん」
声を出すのが妙に恥ずかしくて必死で唇を引き締めているのに噛み殺しきれなかった嬌声が吐息となって鼻から抜ける
(先輩にそこを弄られるのだって、何度か経験しているのに)
そういえば、面と向かって抱き合う体勢なのは初めてだ
バイト中は観客にキャスケットの表情が見えるように 先輩は背後から弄ってくる事が多かった
これでは、こちらの顔も全て見られてしまう、じゃないか
――何もかもがいつもと違う
普段は余裕のある表情で自分を弄り倒している先輩が、今日はキャスケットの反応を探るようにこちらを見つめている
(俺、今どんな顔、してんだろ・・・?)
近付いてくる先輩の目が見たことのない色を浮かべていて、それが情欲なのか判断つかないながらもキャスケットは
吸い込まれるように視線を絡める

――あ。 これは、"欲してる"目だ

唐突にそう思った時には再び口付けられていて
口内を自由に動き回る舌に翻弄され勝手に瞼が降りてくる
絡められた舌先を甘噛みされて、びく、と跳ねた肩を先輩の手が伝う
次第に降りていくその手がキャスケットの手を掴み、その指先までも絡め合わせ、縋る先を探していたキャスケットは
合わせた手を握りしめる

誰に見せるでもない これは、先輩に求められている

気付いた途端、身体の強ばりが少し抜け、キャスケットの腕は無意識にローの背に回って甘えるようにしがみついていた









 プライベートアイズ

望まれて 触れる 熱












本番シーン書こうかなと思っていたのですが、体調悪化につき断念。リンパ腺痛くて1時間おきに目が覚めるし
熱はあがるし、立ってても座ってても寝ててもずきんずきん痛い! 実はコレもベッドの中で痛くてうんうん唸りながら
書いていました。「こんな状態でラブラブえっちとかえろすとか書けるわけ無いよ(泣)」と適当なところでカット。



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