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SS置場4
バイト7 L

久しぶりにバイトシリーズ。うん、放置してたなぁと急遽書き書き。すっかり忘れてたのは内緒です。














いつものバイト先の玄関の前で、ドアノブに手を掛けたまま逡巡する
あぁ、どうしよう
入りたくない。 というか、このまま回れ右して帰りたい
「・・・・。」
掴んだ手を離して、扉の前から数歩後ずさる
(今日は、休ませてもらおうかな。 いっそ、バンが復帰するまで俺も休んじゃう、なんて・・・・・・無理、だよ)
はぁ、と肩を落として大きく溜息を吐く
ローから"今週は抱かないでおいてやる" と宣言されたのは、すでに先週の事だ
宣言通り、客を満足させる程度のセクハラ行為はあったものの、ローはその週はキャスケットをベッドに引き込む事はなく
バイトを終わらせてくれた。サービスにシャワーの時間をいつもの倍にしろと こっそり命令されたりもしたけど、結局彼は
あの口約束を守ってくれていた。
――という事は、いよいよ、今日は先輩に抱かれる事になるのだろう
ぐずぐずと扉の前でキャスケットが躊躇しているのはそのせいで、初めての行為というわけでもないのに
バンに抱かれた時よりも緊張している。
(あぁ、もう。 処女を差し出す直前の乙女かよ!)
既に他人の目に触れるところで、あんな事もこんな事も経験している身で何を寝惚けた事を言っているのだ。
覚悟を決めなきゃと扉に向かって一歩踏み出した途端、その扉が内側から大きく開いてキャスケットは
仰け反るようにして身を引いて衝突を避けた


「・・と、・・先輩っ」
危なく顔面強打の憂き目に遭うところだったキャスケットだが、胸中はそれどころじゃない
「遅ぇ。いつまでそこに立ってる気だ」
うろうろしてる気配がずっとしてたぞと言われて ぐ、と言葉に詰まった。
入れよ、と顎でしゃくられて お邪魔しますと靴を脱いで玄関に上がる
キャスケットのその動作の間中 腕を組んで壁に凭れたローに、じっと観察されていて動きにくい
(ただでさえ意識しちゃってるのに、やりにくいったら)
顔に血が集まらないように気を張るだけで精一杯のキャスケットが、なんで先輩じっと立ってんだよと
内心でこぼしながら前を横切ろうとした瞬間、
「?!」
ぐい、と肩を引かれて視界が回転する
あっと思った時にはローの腕の中にいた
身動きする間もなく唇が塞がれ、ぬるりと舌が侵入する
「んっ!」
びく、と肩が跳ね上がった
それを恥じる余裕もないまま、絡め取る舌の動きに翻弄される
どこか遠くで 物が落ちる音が聞こえたような気がしたけど、ローから与えられるキスに応えるだけで必死の
キャスケットにはそれを気にする暇は無かった
「んぅ、・・っ」
気付けば腰が引き寄せられ ローの下半身と密着している
(あ、駄目、だ・・・反応、しちゃう・・・・・先輩に、分かっちゃう)
嫌だ、と体を引こうとするのに、力の抜けつつあるキャスケットはローの腕から逃げ出せない
(や・・・、っ)
丁度、彼の性器に自分のそれを擦りつけるような姿勢を嫌がって むずかるように身を捩れば、ローの腕は
ますます力を増してキャスケットを抱き締める
(や、だ)
んん、と首を軋ませ嫌だと意思表示するキャスケットを ローの腕が漸く離した頃には 彼の腕に支えられていなければ
床に崩れそうなほどになっていて、初めに聞こえた落下音が自分の買ってきた食材だとその頃になって漸く気付いたのだった


「キスくらいで泣いてんのか?」
いつの間にか目に浮かんでいたらしい涙をローの手が拭っている
「く、るしく、て」
なんとか言葉を押し出せば 嘘付け、反応してたくせにと小さく笑われて赤面した顔を伏せる
(だって、先輩のキスって しつこくていやらしくって、)
それでも、身を押しつけ合っていなければまだ快感をなんとか逃せたかもしれない
ローの体温と呼吸、合わせた腰から感じる彼の熱。
「離して、くれない・・から」
恥ずかしくて目を上げる事が出来ないでいたキャスケットの頬に温かいものが触れる
労るように頬を撫でる、その指先に促されたように顔を上げたキャスケットの目の前に、いつもよりも数段
優しい目をしたローの顔が近付く

唇が、触れる前に。
キャスケットは 彼の目に誘われるように 静かに 涙で潤む視界を閉じた








『選ばせてやる。今夜、ここで最後まで抱かれるか それとも別の場所がいいか』

玄関でのキスの後、耳許に唇を寄せたローに言われた言葉を頭の中で繰り返す

・・・あれは、どういう意味だろう
マイクに拾われないよう声を潜めたその言葉は 顔見知りであるが故の打ち合わせで、バンが相手の時には無かった事だ。
このバイトではなるべく自然に見えるように事前の打ち合わせが為される事はない
全て、相手役のバンの考えた段取りで行われている
プライベートも知っている間柄だから 先輩もやりにくいのか――いや、彼はそんな事を気にするタイプじゃない
(・・・俺があまりにも緊張しているから 他人の目のないところで一度抱いて、慣れさせるつもり・・・なのか)

このバイトで 自分の意思を尊重されるという初めての事に戸惑いながらのキャスケットの手は いつもより動きが悪かったらしく、
夕食の用意が整ったのは少しばかり遅い時間だった
文句の一つも飛ばしそうなローが何も言わずに雑誌を手に時間を潰しているのは本当に自分に選ばせてくれるつもりらしい
(どうする?)
ぐずぐずと考えている暇はない
夕食を終える頃がタイムリミットだろう
ちら、と食事を口に運びながら ローの顔を盗み見る
遅めの夕食に傾注していると思っていたローが箸を進めるのも お座なりに、じっとキャスケットを眺めていたのと目が合って
慌ててテーブルへと目を戻して顔を伏せた
(俺がどっちを選ぶか、待ってるんだ!)



目が合うなり視線を逸らしたキャスケットが赤い顔で俯く様は 目の前の相手を意識している人間を体現しているようで
これはこれで十分、常連となっている客の目を楽しませているとモニターで見ていたバンはローの手腕を評価していた。
当然、渦中のキャスケットは客観的に状況を見れるはずもなく、動揺のあまりさっきから止まりがちだった食事に手を
付けるスピードが速まっている
我に返ったキャスケットが、時間稼ぎをしたかったのにもう食べきってしまったと焦った顔をする様子まで、モニターは
はっきりと映していた
客の中には彼の読みやすい素直な表情を楽しむ者も多いのだ
(それで、ローは今夜こそあいつを抱くつもりなのか?)
際どいところまで手を出すものの 中々キャスケットに手を付けないローが モニターの向こうの人間を焦らしているのは
バンも気付いていた。 毎回それなりに納得させるものを見せているから文句も出ないが、次こそは?という期待で
通い続けている客も増えていて、彼等を飽きさせないようにとローを投入したのは成功だったとバンは目を細めた。
キャスケットにはまる人間が増えてきたということは、ストーカーへの警戒を強めた方がいいかと演出者の視点で
彼等を眺めるバンの見るモニターの中では、片付けの途中でローに背後から抱き締められたキャスケットが皿を
落としそうになって焦っている
キッチンでのあれこれも人気の高いシチュエーションだから今日のメインはこれだなと暫く様子をみていたバンは
多分 今日はセクハラのみで抱かないのだろうと予想する
なんとなくだが、ローも自分と同じように、最初に彼を抱く時はベッドでだろうと思えるのだ
(あの子があんなにも初々しい雰囲気だから。・・・多分、そういう事だ)
無碍に扱うのを、ローのようなタイプの人間でも躊躇ってしまう。 そんな、雰囲気の子だから、客にも人気があるのかもしれない。
でなければリピーターの数はもっと少ないだろう
画面の中のキャスケットの慌てる顔、恥ずかしがる顔、どれもがもっと彼を見ていたいと思わせる
(この企画は当たりだな。人気がなければ早々に身売りさせられるだろうから、彼のためにも成功してよかった)
画面の中で次第に上擦っていくキャスケットの声を聞きながら バンは企画の成功を小さく微笑んで歓迎した









どう返事をすればと考えているうちに、背後からローに抱き締められて どきりと心臓が跳ねた
「あ、あの、先輩・・・っ」
今、片付けの途中だからというキャスケットの都合など、ローには関係ないのだろう
するりと回った手が腰を引き寄せ、後ろから抱きとめられてしまった
首筋にローの吐息を感じて ひく、と身を竦ませた途端に、唇が触れる
「・・・っ、」
片目を眇めるように細めたキャスケットが 何かに耐えるように唇を震わせて声を噛み殺す
頭に血が上って、もう 考え事をしている余裕なんて無くなっていた

――どうするんだ?

耳に囁かれて、はぁ、と吐息が漏れる
そのまま舌でなぞられ耳たぶを甘噛みされて、頬を引き攣らせて小さく喘いだ

"返事は?" と尋ねるようにローの手が おののくキャスケットの乳首を服の上から押しつぶす
同時に 耳の付け根を舌が探り、ちゅぅ、と首筋を吸い上げる
今の行為で痕が残ったとキャスケットが気付くのは翌日自宅に帰ってからになるだろう
「・・・ぅ、・・んっ」
ぶるっ、と胴震いしたキャスケットの脇腹から腰にかけてをローの手が ゆっくりとなぞる

(返事は――?)

そう問い掛ける声が聞こえた気がして、キャスケットは慌てて唇を開いた

「あっ、あと、で・・・! ぁあ、・・・っ」
別の機会に、という声は辛うじて呑み込んだ
(まだ、心の準備の出来ていない今じゃなければいつでもいい・・・っ)
だから、後で、と震える息に紛れて伝える

(・・・賢明な判断だ)
テンパるキャスケットの見えぬ位置で にやりと笑ったローが そう考えていた事など気付くはずもなく、答えたキャスケットは
今を寸止めで済ませる意味を――それがバイトに関係なく私的な場でローと寝るという事だと、まだ気付かずにいた

そして、気付いてからも・・・



 千々に乱れる思い

2人だけの夜をというローの意図は 何を示す・・・の?



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