SS置場4
転校生(没ver.) (Ｌ)
途中から２択――というか、こちらは予定外の方向へいってしまったボツ案の方です。うん。ボツ案を
サルベージしたものがコレです。本番より先にUPするとはどういう了見かｗ
どこにでもある話（つまり日常？）を書いてみたくてはじめたお話。どこが日常？って思うかもですが
人外だったり能力者だったりしない普通の２人にしたかったんです。連載というよりはシリーズみたいな
感じで日常を続けていけたらいいなという野望。しかし一体何のブームが来たんだ、千堂
（転校早々ツイてない）
越してきてすぐの、新しい高校への初登校日。
たいして期待をする気もなく学校に向かったキャスケットだったが、転校生である自分に割り当てられた席は
最後尾の端っこで、目立たない席はラッキーなのだろうかと思った自分に反してクラスの学生から何やら
同情めいた視線を浴びて眉を顰めた
窓際、最後尾。 客観的に見て良い席だと思うのに、この憐憫の目は何なんだろう
訝しみながら席に着くと、唯一の隣席が空きになっている
ここが空席なら、普通は不慣れな転校生をそちらに座らせるだろう
配置から見て孤立するような席ではあまりにも不親切で、教える側からしても不便に違いない。
「隣･･･今日、休み？」
前の席の子に そう話し掛けてみれば、ひく、と少し引き攣った顔で、「朝は居たんだけど・・･」 と語尾を濁して
教えてくれる
「サボり･･･？」
「さ、･･･さぁ･･･」
何気なく尋ねた質問だったのに、その子は明言を避けるようにぼそぼそと言った後、会話を続ける気がなさそうに
さっと前を向いてしまった
（何それ。）
もともと、楽しい気分での登校でもない
何せ この転校は親の離婚に伴う引っ越しが原因で、前の学校を離れたくなかったキャスケットは 少々
不貞腐れ気味の気分でいたのだ
「すいません、教科書がまだ揃っていないんですけど」
話し掛けるチャンスを無くし、また、隣が空席のキャスケットは 仕方なく手を上げて教師に申告する
「隣にでも見せてもらいなさい。あぁ･･･居ないのか？仕方ないな」
どうしてだか キャスケットは前の席の子の教科書を借り、前2人が机を合わせて教科書を共有する事になる
「え･･･、あの。俺がこっちの席に移ってもう1つ隣の子に借りたら･･･」
というキャスケットの提案は教師が無言で首を振った事で敢えなく却下され、転校早々 キャスケットは妙に
隔離される事になってしまった
勿論、教師や新しい級友にその意図は無かったと思うけど、結果としてそうなってしまったのだ
「･･･つまんないなぁ」
教科書の事が後ろめたいのか、結局あの後もクラスの人間は何となく遠巻きで、誰とでも仲良くなれるのが
特技のキャスケットが友人の1人も作る事なく一日の授業を終えて学校を後にしたなんて。
なんだかもう面倒だ、と思ってしまったのもいけなかったのかもしれない
キャスケットが自棄気味で ここで楽しくやっていこうという気概が無いのが伝わったのかも、とも考える
――うちに帰ってもまだ離婚の痛手から立ち直っていない母親が居る
父親似だと言われるキャスケットが傍をうろうろしない方がいいんじゃないだろうか
柄にもなくそんな事に頭を回したりなんかして、なんとなく家に帰り難い
かといって、友達の家に寄っていくだとか、まだ転校したてのキャスケットには無理な相談で、
（しまったなぁ。嫌々行くんじゃなくて、もっと普通に学校に行ばよかった）
今更そんな事を思いついたって後の祭り。
妙にあちこちうろついて親しくもないクラスメイトと鉢合わせするのも微妙に気まずい
（･･･そうだ。教科書･･･図書館とかで 借りられないかな）
現在使用中の教科書が蔵書としてあるはずもないと分かっているのに足を向けたのは時間潰しになると
思ったからだ。
どっちにしてもまだ新しい町に慣れていない自分はどこに時間がつぶせる場所があるのかなんて、
知るわけがないのだから。
出来て間がないのか 綺麗で目立つ建物にキャスケットが足を踏み入れたのは、そんな 理由からだった
（あ。中も綺麗。･･やっぱり、出来たとこか移転したとこっぽい）
普段からそんなに読書家でもないキャスケットは目当ての作家などいるわけもなく、ぶらぶらと中を見て歩く
名著が並ぶ棚を通り抜ければ 所謂娯楽小説の類が並ぶ棚が見え、ここにきて漸く見知った名前が目に止まるようになる
その先には漫画文庫がずらりと用意されていて、案外ここでも時間が潰せるんじゃないかと表情を緩ませ背表紙を眺めて
歩いていると、
「わ！？」
棚から急に、数冊の本がバサバサと落ちてきた
なんだと見上げれば、抜けた本の隙間から すっと手が飛び出し、ちょいちょいと指で合図を送っている
「あぁ、向こう側からすっぽ抜けちゃったのか」
呼ばれるままに数歩近寄れば、気配を感じたのか向こうから声を掛けてきた
「悪い。隙間が狭くて強引に押し込んだらそっち側まで抜けちまった。ぶつかってねぇよな？ こっちのを詰めちまうから
また落ちないように押さえててくれ」
「いいよ。」
聞こえてきた声はまだ若く、あれ･･･この向こう側って小難しそうな専門書じゃなかったっけかと思いながら、
ついでに足元に広がった本を拾う
「こっちのも戻しちゃうね」
元の位置に戻して落ちた付近を手で押さえ、「どうぞ。こっちは押さえてるから」と声を掛ける
何やらお礼の言葉が聞こえると同時に、何度か押されるような手応えがあって、「OK。」 と声が聞こえた
そんな遣り取りがあった後、向こうから回ってきた学生らしい男から声をかけられた
「助かった、ありがとう」
話す男は 大人びた仕草が年上のようにも見えるけど、よく観察すれば自分と変わらない年頃に見えた
（大学生でも通るといえば通るけど。高校生･･･かな。 ）
彼の外見について そんな事を考えながら、大した事もしていないと笑って首を横に振る
そのキャスケットを こちらは遠慮無くじろじろと眺めた相手は、最後に「見ない顔だな」 と呟いた
「あぁ、引っ越してきたとこだから」
もしかして、この人、図書館の主とかだろうか
キャスケットの返事をなるほどと肯いた相手はついてこいよと腕を掴んで歩き出す
「え、え？」
初対面の相手との距離感を掴めないで面食らうキャスケットを引き連れた相手が足を止めたのは違うフロアの一角の
ラウンジらしい明るい場所で、強引に席に座らされて きょろきょろと辺りを見回すうちに、買ってきたらしい飲み物の
入った紙コップが トン、と目の前に2つ並んだ
え、とコップと相手の顔を見比べるキャスケットを見て、僅かに唇を引き上げた相手が
「礼だ。好きな方を取れ」 と指図する
――そう。まさに、指図。
有無を言わさずの行動なのに、それがお礼のつもりなのだから妙におかしくなって、キャスケットは くすくすと笑いながら
「それじゃ、遠慮なく」 と紅茶とおぼしき方のコップに手を伸ばした
「え･･･それじゃ、同じ学年？」
もらった飲み物で喉を潤しながらなんとなく自己紹介のような話になる
トラファルガーと言うその男は 初めにキャスケットが読んだとおりの高校生で、それでも1つ2つ上かと思えば
自分と同じ学年だと言う
（あれ？もしかして、この町に来てからの友達１号？）
いや、まだ 『知り合い』･･･かなぁ。
少しうきうきしながらの会話は いつの間にかキャスケットの新しい家の話になっている
「あぁ、あの辺り。 なら、通学に便利なのはG校とS校とN校――」
「あ！俺、G校なんだ。 今日が初登校で、」
真っ直ぐ帰るのもつまらなくて寄り道してみたと話すキャスケットの前では、トラファルガーが ふぅんと相槌を打って
にやりと唇を歪める
「まぁ、ここも５時には閉館するけどな。 途中どこかで軽く喰ってくか？」
「俺、まだ店の場所よく知らなくて･･･」
自分の小遣いで寄れる店なんて高が知れている。 コンビニで買い食いかファーストフードくらいのものだ
「任せろ。地元民だ」
にやっと笑うその顔が頼もしい
こうして、キャスケットは無事友人をゲットし、帰宅時間ぎりぎりまで彼と一緒に過ごしたのだった
翌日、昨日の機嫌の良さを残したまま登校したキャスケットは 教室に入るなり昨日にも増して同情深い視線を
浴びて目を瞬かせた
昨日からの、この級友達の思わせぶりというか意味ありげな視線は一体何だっていうんだ。
（あ。そういえば、また教科書が無いんだよな。 今日も人のを借りるのか･･･）
せめて他のクラスに知り合いでもいれば授業がかち合わないように借りてこれるというのに
（それとも、見知らぬ転校生に貸してくれる相手を探して他の組に突撃してみようか。）
そうなのだ。 普段のキャスケットなら、それくらい平気でやってしまうくらいの行動力と度胸（？）はある
昨日がどれだけ気分がのらない登校だったか知れるというもの
図書館での出会いで すっかり元の自分を取り戻していたキャスケットは、よし、授業が始まる前に 手っ取り早く
隣の組の誰かから借りてこようと決めて席に急ぐ
（･･･あれ？）
昨日は空席だった隣に、人の姿が見える
なんだ。先生やクラスの生徒の様子から 隣の席は不登校の問題児か何かだと思い込んでいたのに
たまたま昨日は休んでいただけなのかな
そう思って席を目指していたキャスケットは、大きく目を見開いて立ち止まった
「え････、トラファルガー！！？」
「よぉ。」
吃驚して叫んだキャスケットと、にやにや笑ってローが声を返した事により、教室が ざわりと声を立てる
「なぁんだ、隣の席の奴って、トラファルガーだったのか･･･ あっ、それじゃ、昨日はさぼり！？」
「馬鹿いえ。昨日はれっきとした病欠だ。」
うそつけ〜と気安く言葉を交わす2人を遠巻きに眺める生徒の様子には気付かず、早速出来た友人との
再会に キャスケットはご機嫌な笑顔を振りまくのだった
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あれ？予定外の展開（正しい展開は次回ＵＰ）
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